+++インソムニア+++

□ありったけの
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そう思った瞬間、ばさばさと上から降ってきたものにぱちりと下がりかけた瞼が跳ね上がる。
がばりと半身を起こして隣にあった刀の鯉口を切る前に、腕を押さえられた。小柄な体がのしかかってくる。

「あーあ、折角飾ったのに」

拗ねたような面白がるような声が振ってきた。
何が起こった。
呆然としている俺にいつものように悪童のような顔で笑ったのは総悟で、半分だけ起き上がることに成功した体は再び畳と仲良くなる。

つまり組み敷かれた。

けれど焦るよりも先に、髪に押しつぶされてくしゃりと鳴った小さな音に向いた。

「ああ、造花でさァ」
「…んなもん、どっから持ってきたんだ」
「スーパーの開店記念ですぜィ」

綺麗だろィ、と言いつつ総悟が持ち上げたものは椿だった。全く持って縁起が悪い。本当にスーパーの開店記念なのだろうか。精巧と思ったのは一瞬で、おしべとめしべのプラスチックの質感が安っぽすぎて、何故だか少し悲しくなった。

「百合もあるんですぜ。綺麗でしょう」

真っ白な百合を持ち上げた子供みたいな手が俺の髪にそっとそれを飾る。真上から俺を見下ろした総悟は首をかしげて、ああやっぱりこれじゃあ駄目だと呟くとごそごそとそのへんに散らばった花を漁って、紅い花を取り出す。

「総悟、スーパーの開店記念じゃなかったんだろ」
「ばれやしたか」

丁寧に捧げもたれた緑の茎が髪に差し込まれるのを横目で見やる。至近距離の像は上手く結ばれなかった。ぼやけたあの子供みたいな手の肌色と、鮮やかな緑と、毒々しい赤。
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