+++インソムニア+++

□逃。
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昨日俺はしばらくぶりに密偵から戻ってきて、徹夜で報告書を上げました。
情報は新鮮さが命です。そこらの寿司ネタなんか目じゃないくらいです。
朝方になってようやく概要だけしたためて、副長の私室に上がりました。副長は丁度夜勤明けで、私服に着替えたばかりのようでした。頭が上手くはたらかないのか、いつもよりも目つきが胡乱げでした。

副長は慢性の不眠症です。
俺も久しぶりに屯所に戻ってきて、睡眠が取れない状況というのは非常につらいものだと心から共感しました。だって密偵中なんてぐーすか眠っていられませんから。

ともかく副長は夜勤明けで、かなりくつろいだ様子で胡坐をかいた裾から白い足が覗いていて、眩暈に撃ち落されるかと思いました。

細いです。同じ男で良いのかと思うほど細いです。
いい加減に疲労が溜まっていたのでしょう、うすらと紅い眦も直視できません。
色っぽいです。そころのスナックのお嬢さんより断然色っぽいです。
というか先日まで密偵に入っていたのがシンジュク二丁目だったんですが。

「御苦労」

鷹揚にかけられた言葉がけだるげです。報告書を手渡しながら、ふと視線を上げると寝酒でしょう。少し水分を含んでわずかに腫れた唇がすぐ近くにありました。

……眠かったんです。

限界だったんです。朦朧としてたんです。

だから近くでそれを見た瞬間、綺麗だなぁ、とか。お、美味しそーだなー、とか。

……思っちゃったんです。
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