+++インソムニア+++

□流れゆくもの−過去編−
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見回りも終えて、提出する書類も刻限より多少余裕を設けて持って行かせたというのに、迎えが来ている。

屯所の玄関口に横付けにされたのは黒塗りの車だった。
少なくとも一般市民が使うようなものではない。
あんなタイヤが前後二個ずつで足りるのかと疑うような車、実際生活では使いづらいことこの上ないだろう。

ダックスフントを思い出し、土方は眉根を寄せた。そんな可愛いものではない。

唇の端にさしはさんでいた煙草を大きく吸って、肺を有害な物質で満たしてから足下に吐き出した。
後ろで沖田がポイ捨てはいけやせんぜ、というのを理由もなく殴ってやりたいような気分になったけれどサンドバッグ代わりにしたら後が怖いので拳を固めるだけにする。
普段使っているサンドバッグが見当たらないのがいけない。

「トシ…」
「一寸出てくるだけだから」

大丈夫だよ、と何か違う心配をしているらしい近藤の肩を叩く。
少なくとも悪い用件ではないはずだ。問題も起こしていないし、テロは頻発しているものの、真選組全体としてはよく機能している。

ということは、アレか。

思い当たった可能性に苦々しく溜息を吐くと、土方は御丁寧に扉を開けて待っている運転手をひと睨みしてリムジンの後部座席に乗り込んだ。
乗り込んだ先、今は官僚用の車でも禁煙となっているのか、灰皿の気配もなく、益々不機嫌になる。

おそらくこの大仰な迎えは、自分を引き抜こうとする要人の差し金であろう。
土方自身の実務能力は当然ながら、真選組を手中に収めコントロールしておきたい上の人間は腐るほどいる。
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