+++インソムニア+++
□流れゆくもの -現在編-
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いつものスーパーは閉店間際の時間だからか客が少ない。
仕事が長引いたおかげで閉店時間まで後いくばくも無かった。スーパーに駆け込む道すがら考えていたメニューのため、材料を乱雑にかごに放りこんでいく。
特売のマヨネーズが残っていたことに安堵しながら、お徳用サイズを三つ、迷うことなくかごに突っ込んで、振り返った拍子に何ともだれた声がして、さっさとレジへと向かおうとしていた後がひたりと止まったのは、その時だった。
「はいいらっしゃーい。お弁当にいかがっすかー。一口サイズあらびきウィンナー、お安くなってますよー」
「……あ。」
気が付いたのは、殆ど同時だった。
ジュウジュウと小気味の良い音を立てるホットプレートを背景に、試食品の乗った皿を片手にしてサングラスの男がぽかんと口を開いている。油はねで汚れた薄いピンクのエプロンにアイロンも当てていないワイシャツ姿で、そこまではいいものの、あのサングラスが変わっていないものだから、中々シュールな格好だ。
「……おひとついかがですか」
どうか会話をしていいのか迷ったのだろう。条件反射なのか、差し出された紙皿の上にはほどよく焼き色のついたウィンナーが並んでいて。
「…いただきます」
そう言ってついついつまんでしまった自分も相当混乱していると土方は思った。
会社帰りのOLたちが胡散臭そうな目で二人を眺めて足早に通り過ぎていく。それはそうだ、土方はまだ隊服を着たままだった。そんな物騒な格好をした男が販売員と微妙な雰囲気でウィンナーを咀嚼していればいぶかしみもするだろう。