+++インソムニア+++

□羽化の刻限
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梅雨の間中、土方は沖田に対してどこかぎこちなかった。
生真面目な土方のことだ、沖田の何気ない一言を気にしているのだろうと見て取れて、沖田は普段と何も変わらない様子を繕いながら殊更丁寧に土方の挙動を観察した。冷徹に見えて身内のことを放っておけない性質の彼は、自分の一言を深読みしようにもどう反応していいか分からず、戸惑っているようにも思えた。

毒虫を体内に埋め込まれ孵化できぬ蛹。
未完成のまま朽ち逝く体。

そこに土方が何を見つけ出すかは、沖田にとってさほど重要ではない。
沖田にとってあの言葉は大した意味があったから口に出した、そういうものでは決してなかった。ひょっとしたら土方の悩む顔を見たい、それだけの子供めいた理由だったかもしれない。大体沖田の頭はそういう哲学的なことをいじりまわして思案に耽るには向いていないのである。趣味ではない。
だが土方には、沖田に似合わぬそれが良く似合った。

土方という男のことを、沖田は彼以上に知っている。対比のしようもないものだが沖田はそう思っている。
ごく小さいころから子供というだけで彼の警戒網を潜り抜けることの出来た沖田は、彼のぴんと張っていてだがやわい筋肉の具合だとか、まつげの長さであるとか、ごわついているようにも見えるその髪が意外に手触りが良く癖が無いものであるとか、その腕の抱え込める範囲であるとか。
その膝が実は弾力に富み、とても居心地が良いものであるとかいうことを、実に良く知っていた。
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