+++インソムニア+++

□禁じられた遊び
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その当時から土方は美男であったから、女に大層もてた。金も無いはずなのに遊び仲間と吉原なんぞに行って平気に昼間から女の白粉を香らせて道場に顔を出したりする。
そのたびに沖田は、

「女の匂いがくせェんでさァ」

そう嫌そうに言っては顔もろくろく合わせないで逃げ出したりする。
それでも土方は本当に、沖田のそれを子供ゆえの潔癖だと思っているらしく(自分だってまだ少年の頃だというのに)大して気にもせず、沖田をほんの幼児を見るような目で眺めて、水をわざわざ浴びに行ったりもしないのだ。
沖田だってそれが潔癖のようなものだと自身でも思っていた。
だから自分がそう言うのに、まるで平気な顔をしている土方が嫌いだった。

(…女より白粉が似合うつらしてるくせに)

そう思うようになったのは、いつ頃からだったろうか。
年を経るごとに、成長期の沖田の身長はぐんぐん伸びていった。だが土方もまた少年期の華奢な骨格を失いゆき、どんどん大人なっていった。けれど土方はやはり美男であり、その体もまたどことなくほっそりとしてしなやかなままで、近藤のようになったりはしなかった。

綺麗な男だ。

なめらかな白い肌。沖田は自分もそうだと言われているけれど、色の抜けたように青ざめてすら見える土方のそれが、なぜか恐ろしいもののように思えた。女のように白粉をはたいたらさぞかしや似合うだろう。

紅をひいたように赤い鮮やかな赤い唇。
そのころまだ長かったつややかな黒髪。

精通を果たしたとき、沖田は何故道場の大人たちが見せてくれたグラビアの豊満な胸の谷間ではなく、土方の色の抜けたような白い背中を夢を見たのだ、と本気で悩んだ。
沖田は土方にだけは懐いたりしなかったのに、それなのにどうして夢に彼が出てきて、そうして自分の前でするりと濃色の浴衣から袖を抜いて落としてみせたのかまったく分からなかった。
しかし何故かそのとき自分を振り返った紅く染まった目尻とほんのり開いた口唇とを沖田は忘れることはできなかったのだ。
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