+++インソムニア+++

□禁じられた遊び 後日談
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結局、ぐるりと回って初めの場所に戻ってきてしまった。それだけだ。
いや、やったことがやったことだったから、スタート位置はマイナスかも知れない。



あれから――――ほんの少ししただけで、土方はあっさりと何事もなかったように体調を立て直した。
とはいえ、あまりにも削れてしまった量が半端ではなかったものだから、しばらくは服を緩くしたりして誤魔化している。
それをほんの少しの動作の端々に見つける度に、沖田はひそりと腹の中で疼痛が罪悪感を刺激するのを感じた。
土方をああしたのは、自分だ。
だがもうそこに、支配欲を充足させるような快感は、全く残っていなかった。ただその背中をぼんやりと見つめながら、沖田は――――途方に暮れたのである。

どうやって近づいたらいいのか。
落としてやると豪語したくせに、手をこまねくことしか、沖田には出来ないでいたのだ。

ここ一月ほど、土方とまともに話していないような気がする。
否、沖田自身は普通に受け答えしているのだが、その顔を直視できないでいるのだ。
吹っ切れた後の土方は、すがすがしいまでに強壮だった。それまでの死人一歩手前ほどまでいった顔色が嘘だったかのように、精力的に働いている。
まるで別人のようだ、と生き生きと働いている土方を見てでさえ、沖田はそっと落ち込んだ。ひょっとしてあれが元々の土方だったのかもしれない。仕事の量は変わっていないと思うのだが、仕事に対する姿勢が違う。
土方にあんな、沈んだ青白い貌をさせていたのは自分だったのだ。土方にとっても、問題は全く解決しはいないはずだった。一度的に棚に上げた状態なのだが、それでも今までよりもずっと調子が良いらしい。
土方はずっと、沖田に憎まれているのだと信じ込んでいた。
沖田にしてみれば全く逆だったわけだが、あれだけの悪戯とはいえないレベルのスキンシップをされていたら、大抵の人間はそう信じるだろう。だが誤解を解いて、再びスタートラインに立つことが出来たとはいえ――――沖田は今度は、土方にどう接していいか分からないでいるのだった。
今までは予告なしに斬り付けたり(予告があってもまずかろうが)子供の頃はカエルやヘビを投げつけたり布団に仕込んだりしていた。だが今更そんな方法を取るわけには行かなかったし、かといって自然に話しかけようとしても、確実に不自然になる。
そのおかげで、いつの間にかぐんと、土方と話をする機会が減ってしまっているのだった。
その製で又、鬱々とする羽目に陥っているのだが。
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