+++インソムニア+++

□禁じられた遊び 後日談
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「結局は、家族や兄弟に戻っただけだもんねィ…」

土方が今まで、沖田の悪戯がどれほど酷かろうが全てを許容してきたのは、沖田が彼の弟のようなものだったからだ。実際抱かれるまで、土方は沖田のことを手のかかる弟といった認識から抜け出せないでいただろう。土方は沖田に憎まれることを苦しんでいた。弟か家族とも思っていなければ、土方ははっきりとした男だ。他人と身内の意識がはっきりとしている。内側に入れた人間には情は厚すぎるほどに厚い男だということを、沖田は知っているのだ。
その代わり、敵に回った人間には氷よりも冷酷になれるのだが。

一度懐に入れた人間を、土方は放り出すことは出来ない。
沖田はだが、その弟という位置がいつだって、歯痒かった。

自覚してからというもの、一度だって沖田は土方のことを、兄だと思ったことはないのに。
土方にとっては、未だ沖田は抱かれてもどれだけ憎まれていると思っていても、それでも放り出すことのできない、弟なのかも知れない。

「…恋って難しいよなァ…」

頬杖を吐いて呟いた沖田に、ぎくりと茶を出しに来た山崎が竦みあがった。
最近沖田の部屋に訪れるようになったばかりなので、まだ怯えが抜けないでいる。いつ土方のように斬りかかられるか、とびくびくとしてしまうのだろう。
そんなの土方さんにだけだィ、と沖田は心中呟く。
土方の気を引きたかっただけで、山崎にそんなことをして体力と気力を消耗させるつもりなど毛頭無い沖田だ。

「恋…ですか?」

びくり、とただ呟いただけだというのに、器用に正座のまま飛び上がった山崎は、沖田の前に茶を置くと、そのまま慌てて障子の側にまで下がるのだが、興味が勝ったのか、出てはいなかった。
クダを巻く酔っ払いのオヤジのようなジト目で、沖田は白紙の書類と淹れられた茶と、ペンを見回して溜息を吐いた。今まで山崎が沖田のところに茶を出す習慣がなかったのは、単に沖田が書類を書かなかったからだ。始末書だけは量産するくせに、ぎりぎりになってから大体沖田は書類を土方に(時には山崎に)押し付けていた。その度に叱られるのだが、全くしれっとしたままの沖田に、真っ赤になって怒鳴る土方の顔が見たかったというだけなので、罪悪感は多少あったものの決してやめることは出来なかった。

だが今はもう、それも出来ない。
これ以上土方との関係がマイナス値になるのはたまらないということで、せっせと慣れない書類に取り組んでいるのである。
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