+++インソムニア+++

□冬雀
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土方がそれを見たのは、底冷えするかのような寒さも厳しさを増した一月の中旬にそろそろ差しかかろうという日の事だった。





冬雀






土方がその日私宅へと戻ってきたのは、年が明けてから初めてのことだった。元々息抜きのためとはいえ、諸々の事情があり、年末にさしかかるまではちょくちょくと足を向けていた土方だ。もしかしたらその諸々の事情にかかずらうようになってからというもの、こんなに長く私宅を開けたのは初めてだったかもしれない。

仕方がない、年末の警察は忙しいのだ。ただでさえ新しい年を迎えるのに、酔っぱらって気が大きくなって暴れる市民を宥めすかしては世話をしてやり、時には拘置所に押し込み、どこぞの不届き者が正月にでかい花火を打ち上げやしないかとピリピリしていたものである。
なにせお祭り好きし国民性だ。あちこちから面白そうな物を取り込んでしまう宗教的奔放さも国民性だ。しかも腹の立つことに、祝い事は無礼講というのもまた国民性なのである。
律儀さが仇になり、公でも私でもその後片付けをさせられる身としてはたまったものではない。
一度羽目を外して自販機の上で目を覚ました経験から、それ以来自制するようにしている土方だ。敵の多い身だ、うっかり酩酊しているところを斬られてはかなわないというのもその一端ではあるが、あのふざけた諸事情曰く、土方は妙な色気がある上、酒に香るそれは三割増どころか三倍らしいので。その諸事情の言いなりになるのは癪だがこれ以上の面倒事を招かないために、自制しているのである。

厄介事は、あの忌々しい諸事情ひとつきりで充分であった。充分どころか、今だって持て余しているのだ。
兎にも角にも、年末年始土方はブーブーと不平をこぼす諸事情を念入りに脅しつけた。

『年末年始は帰らない。もしもテロなどしてみろ、追い出す前にこの家を売り払ってやるからな。』

これが脅し文句になるのもどうかと思う土方だ。
だがなってしまうのだから仕方がない。半同棲を始めてそろそろ半年、土方はすっかりと諸事情の性格を把握していた。
まさか屯所に顔を出せた筋もない緒事情は、散々我儘を言ってダダを捏ねて、最終的には土方の無言の圧力に屈したのだった。
さて、こうなれば諸事情は余程のことがない限り、土方の手を煩わせたりはしない。
いちいち言わなくてもそうなって欲しいものだが、それを望むような関係ではなかった。兎も角これで年末年始のいざこざと頭痛の種が一つ減ったと上機嫌で私宅を出たのが、確か十二月のクリスマス一週間前であったと思う。となれば、戻ってきたのは一ヶ月ぶりだった。

実際仕事の方は、松の内を過ぎた頃には通常のペースに戻っていたのだ。
松飾りが取れる頃には神社の参拝客は減り、初売りのデパートは落ち着き、正月に働こうとした不届きなテロリストどもを何グループかひっ捕まえれば、そろそろ仕事もひと段落、という所なのだが。
土方がそれから十日を過ぎても私宅に戻ってこなかったのは、七日が過ぎた頃に沖田の二年越しの始末書と、近藤が忘れていた提出書類が、大掃除の時も発掘されなかったというのに、何故か土方の私室から今更発掘されたからだ。
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