+++アンニュイ+++
□唇に血痕。
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土方の血は美しい。
たらたらと薄く傷つけた首から紅の筋が流れて鎖骨にたまり、すっと残像を残して腹に落ちるのを高杉は見てそう思った。
朝露が椿のすべらかな葉の端にたまり、弧を描いて落ちていく。そんな妄想をした。
現実土方の、露出させないせいで女のように生っ白い肌に伝っているのは清廉透明な雫ではなく少したてばどす黒く固まる鮮やかな紅である。
だがそれが、美しいものであると認識してしまうほど、高杉の思考はねじれ、ただ土方とその細い首から流れる紅に集中していた。
+++唇に血痕+++
傷つけるつもりは無かった。
人がせっかく布団を占拠して待っていてやったというのに無言でソファに寝そべるから、たたき起こすつもりだった。
あまりに手を突いたソファの生地がスプリングの利かずなよっとしていたがために、手元に僅かの狂いができたのである。
首の真横すれすれに突き立てるはずだった刃は僅かに土方の首の掠めて、今紅を生み続けている。
土方は薄く目を開いた。睨みつけるようにその黒目がちの(瞳孔の占める面積が大きいのだが)目を眇めて高杉に見せる。
ワーカーホリックで常よりも剣呑さの浮き出る視線に高杉は熱せられた息を吐いて欲情した。
たまらなくなって滴り落ちる紅をなめる。鉄サビのにおい。こんなものが酒と同じくらい甘く美味いと思うほどに高杉の脳みそはねじれて、やはり土方と土方の流す紅に傾いていた。