+++アンニュイ+++

□居心地の良い男
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好きなんですかぃ、と聞かれて否と答える。
好きなんでしょうと少しだけ質問が確信めいた色を孕んでも否と言い続けた。

だって好きという定義がわからない。

居心地はいいと思う。馬鹿なことを言ってこちらの神経をささくれだたさなければこれほど沈黙が心地いい相手も少ない。
沖田を相手にすればいつ寝首をかかれるか(冗談なのか本気なのか、冗談であってくれれば良いのだが)わからないので気は抜けないし、山崎も時々なにか言いたげな目をじっと向けてくる。居心地はお世辞にもいいとは言えない。

近藤さんの隣で弱い酒をあおっていればいいのだが、あのひとは酔うと惚れた女と自分を間違えてきやがる。
そこまで泥酔させなければ良いのだが、それでも延々と愚痴なのだか惚気なのだかわからないことを聞かされるにも限界がある。

いつからだったか、道場にいたころは酒のつまみはあの人の語る夢だったから、やはり真選組ができてからだろう。そう思うと、夢を叶え続けている現在のほうが肩身が狭いとはどういうことなのだと苦笑の一つもこぼしたくなる。


「土方さんは鈍いお人ですぜぃ」


阿呆なことを言い続けて、突っ込みにも疲れた瞬間に天気の話でもするかのように自然にそういわれた。

何だよ、と振り返ったときには沖田の姿はもう襖の向こう側に消えていたから、未だにその意味を聞き出せないでいる。
昼間の会話を反芻しながら珍しく定時で上がった俺は何故かいた銀髪とドラマの再放送を見ている。
長い髪の女が何か叫んでいたが、普段この時間は未だ書類と格闘しているので話の筋なんて一つもわからない。優柔不断そうな男がなにやら口ごもっているのに女の平手が飛ぶ。女ってのは怖い生きモンだねぇ、と隣で飴を舐めながらぼそりと銀髪が呟いた。

こいつのところの従業員を見てればそれは納得できる。というよりも、この男の周囲にいる女はまともなのがいない。

女自体周囲にいない自分が言えることでもないが。
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