+++アンニュイ+++

□居心地の良い男
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居心地はいいと思う。

いけ好かない男だが、見た目よりも空気を読むのが上手い。
こちらがぴりぴりしているときは逆撫でしないのでありがたい。
自分は一度箍が外れるとどうなるかもわからない。爆弾のようなものだと自覚している。
だから女をあまり周囲に置きたくない。
深い付き合いなんてもってのほかで、嫁も別に要らないと思う。血統とかそんな大層なものを背負っていなくて良かった。この狂った遺伝子なんざ後世に残してたまるかとまで思う。

いくら子供をなしても結局自分として生きられるのは一度っきりだ。ああ、でも近藤さんのあの雰囲気は、受け継がれるといいなと思う。それでもあの人の妻になる人間が想像できないのは、沖田が昔言ったように自分が嫉妬深い人間だからだろうか。

そんな恋愛沙汰みたいなこと、想像したこともない。

「多串君はさぁ」
「…あぁ?」

テレビのめまぐるしく変わっていく場面を見ていたら不意に自分と同じように画面に集中していると思った銀髪が声をかけて来た。
少し驚いて反応が遅れる。

多串君はさァ。

俺の名前ではない名前を平然と俺に向けながら銀髪は繰り返す。何だよ、と少し焦れて聞いたら笑う気配があった。全くいけ好かない男だ

「あのゴリラのこと好きなの?」
「ゴリラじゃねぇ。近藤さんだ」

続いて出てきた質問に恥ずかしいが反応が遅れに遅れて、まず正しておかなければならないと思ったところを口に出しておく。
じゃあそのコンドーさんが好きなの?と相手も律儀に質問しなおしてきた。伸ばすな。いかがわしい。いかがわしいのは俺の頭か畜生。現実逃避気味にそんなことを考えるが結局頭の中は落ち着かない。落ち着かないまま、

「…それは違うだろ」
「どうして」

こういうときだけ反応が早いなと、画面に視線を向けたままの銀髪の横顔を少し睨んでみた。
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