+++アンニュイ+++

□記念日
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朝起きたら、いつもはだらだらしているはずの高杉が何故か自分よりも早く起きていた。

目を覚ますのは大体同じ時間だが、布団から抜けるのは自分のほうが早い。寝起きは良いくせに何故かいつも布団と仲良くしている高杉がいないのは変な気がする。
既に惰性というか、それが習慣のようになっているからだろうか。

「……何やってんだ」

寝ぼけた目のまま土方がダイニングに向かうといつもは自分がつける濃紺のエプロンをつけた高杉がフライパンを使っていた。

ぱっと見かなり不気味な光景だ。思わず入り口で固まってしまった土方に気がついた高杉はよう、と手を上げる。
いつもの挨拶。
いつもでない光景。
けれどなかなか手つきは様になっている。というよりも手馴れている。料理が出来るとは知らなかった。

起き抜けの頭で必死に現実の違和感を肯定しようとしているのが自分でも分かって酷く可笑しい。

「もう少し寝てろよ。まだ出勤には早ぇぜ?」
「いや、十分目が覚めた……」

何をこいつは夫を迎える朝の妻のようなことを言っているんだろう。
ますます不気味だ。
とりあえず顔を洗って隊服に着替えるころには台所の音は止んでいて、ダイニングテーブルにふたりして向かい合って行儀良く手を合わせる。

イタダキマス。

味噌汁(赤ダシ)、白飯(炊き立て)、いり卵(マヨネーズたっぷり)、ほうれん草のおひたし(すりゴマ醤油)、納豆(辛子多め)。

完璧だ。

(しかも俺の好み完全に把握してやがる。)

特にマヨネーズたっぷりのところなど。

何度も夕食を共にしているから、分かっていて当然といえば当然なのだが自分でかけるまもなく予定している分量が出てくるのが凄い。

「……んまい」

ぼそりと呟くとにやりとあの凶悪な笑顔。こういう時までニコリじゃなくてニヤリと笑うんだなぁ。そんなことを思う。いやニコリと笑われると怖いかもしれないから想像しないでおくが。

「行ってらっしゃい」と玄関先で送り出される。今日はなんだか妙にくすぐったい朝だと思った。完全に普段の立場が逆転していたので。
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