+++アンニュイ+++

□四人になった日。
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「俺の子供を産んでください」


聴いた瞬間張り倒してやろうかと思った。けれど顔が真剣だったから、つっこむタイミングも見逃して、殴ろうとした手も振り上げられないで居る。
どうしよう。
というか、どうしてこんなことになっているのだろう。

+++四人になった日。+++

何故かいつもの三人が、いつものように自宅居間に集まって、けれどいつものように呑んだくれていない。

土方がきっちり揃えられた草履とかあっちこっちを向いているブーツの脇から上がって人気のある襖の前を通っても顔も出さなかった。
いつもならメシ作って、と銀色をしたマダオその一が顔を出すはずなのにだ。このあたりで既におかしいと思いつつ、水を飲みに行ったキッチンの冷蔵庫は中身が減っていない。この間買い足したばかりのビールも減っていなかった。いよいよもっておかしい。
私室(一人暮らしの一軒家で私室と言うのもおかしいが)で隊服を脱いで着物に着替える間も何の声も掛からなかった。本格的におかしい。いつもならここで高杉あたりのちょっかいが入るはずなのだ。

気配をうかがうが、居間からはボソボソしゃべる声が聞こえてくるだけで第一その雰囲気もおかしい。あのメンバーならしゃべるといってもボソボソ、なんてことにはならないはずなのだ。

銀時が突拍子もないことを言い出して、桂が真面目な顔で天然っぷりを発揮し方向を更に捻じ曲げて、高杉が収拾の付かなくなる前にとどめをさす。

そういうリズムになるはずだ。

思わず今脱いだばかりの隊服を着なおして屯所に戻りたい気分になったが、放置するのも怖かったので恐る恐る襖を開ける。何やってんだ、と声をかける前こちらに顔を向けていた銀時がアッ、と大きな声をたて、間にあったソファを飛び越えると、呆然とする土方の手を両手で握り締めた。

そりゃあもうしっかりと、痛いくらいに。

そして出会ってから数度しか見たことのない、珍しいくらい真面目な顔で、

「俺の子供を産んでください」
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