+++アンニュイ+++

□じゅうにがつにじゅうよっか
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12月23日、夕刻

いつもは行かないスーパーにふらりと寄ってみたら、知った人間が居た。

「……お前、どこでもバイトしてんのな」
「攘夷にも先立つものは必要なのだ」

白い宇宙生物(仮)と一緒に掲げたプラカードには「クリスマス直前激安セール中」と太い文字が描かれている。

以前はキャバクラの呼び込みをしていたのを目撃している土方だ。キャバクラに比べれば健全だけれど、顔を隠さなくてもいいのだろうか。
どう考えても桂も白い生物も目立つ風貌をしているというのに(だから宣伝業に雇われているのだろうか)、何故この男に自分たちが遅れをとっているのか、土方は本気で情けなくなった。

「今日の仕事は?」
「勤務時間は終わってる…見りゃ分かるだろ?」

なるほど土方はいつもの隊服ではなく着流し姿だった。隊服姿のときに見つけられたら確実に切りかかられているから、愚問だったな、と桂は頷くと、律儀に広告を手渡す。
いつも土方が行くスーパーも従業員を募集していたというのにそちらに応募しないあたり、桂もちゃんと考えている…のだろうか。

渡されたチラシには一面にケーキだとか甘ったるそうな菓子が並んでいて土方は眉根を寄せる。クリスマス・イブ・イブの今日は流石にかきいれどきらしく、紙面にマヨネーズなんとでこにも見当たらなかった。

「お前は24日と25日、家に居るのか?」
「イベント事にかこつけて暴れる馬鹿が居るから警備に駆り出されることになってる」

悪くしたら正月が明けるまで休みなんてものはないかもしれない。口に出したら流石に頭が痛くなってきた土方だ。ただでさえ普段から忙しいというのに。

年末年始くらいはゆっくりしたかったのだけれど、真選組のメンバーを思い浮かべれば自分が締める部分を締めなければクリスマスに便乗して遊びだしそうな輩ばかりだ。ひょっとしたら真選組自体がそのイベント事にかこつけて騒きぐ馬鹿になってしまうかもしれず、土方の責任は重大である。

土方とて一人だけ仏頂面をして楽しいわけがないのだが、そうするより仕方が無い。全くもって因果な話だ。

「頼むから大人しくしててくれよ…」
「確約は出来ん。…が、お前が過労死されても困る」

考え込むこともなく桂は即答した。桂も高杉には劣るが過激派で名前が通っている攘夷志士である。
いくら土方の家に現在居住しているとはいえ、真選組の副長に頼まれてテロを止めるなんて滑稽なことは出来ないのだろう。

そりゃあそうだ、と思いつつ土方は首をかしげた。
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