+++アンニュイ+++
□厭う空
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吐息まで空気と結託して、体にこもった熱を奪い消えていった。
行灯を消した室内は薄暗く、けれどもう長い間この部屋にいるものだから詳細にではないが様子は見える。
四隅からひたひたと闇が迫ってくるような錯覚を覚える。
飲み込まれていくみたいだ。
けれど部屋の中央におざなりに敷いた布団の敷布が浮き上がるように白いので、ここまでは到達することは出来ないだろう。
カーテンの向こうには明け始めの夜がある。
高杉がこの家に来たのが大分遅い時間で、それからふしだらなことに耽っていたから、もう随分な時間のはずだ。
激情を吐き出した後の心地よい倦怠感を味わっているのは自分だけなのかもしれないと、敷布に押し付けられた土方の白い頬を骨ばった指先で辿りながら思う。
さんざ啼かせたし、泣かせた。声が枯れるまで揺さぶった。
早く浅かった呼吸が細いけれど深くなったのに安堵する。最後に吐き出したときの痙攣があまりに長かったものだから心配になった。原因は自分だけれど。
枕元に放り出してあったどちらのものとも知れない着物を羽織っただけの格好で手桶に湯を張りに行った。
ひたひたと自分の足音だけが響く廊下は冬の最中らしく冷え切っていて、先刻吐き出し今は腹の底、燻っている火を沈静化させる。静寂を切り裂いて捻った蛇口から落ちる湯の音にぼんやりと天井を見上げた。
数ヶ月前まで、ここに立ち入っていいのは土方だけだったはずなのだ。
静かな一軒家。
部屋数はそこここあるけれど、何より古い。蛇口や電灯は後から取り付けたのだろう。工事の跡だけが新しくて、そのちぐはぐさに今のこの国を思い出した。
古いものに新しいものを無造作に無遠慮に積み重ねて。
小さく笑って占めた蛇口の水。滴って、小さな水紋を作るのを構わずに手桶ごと持ち上げれば大きな波が出来た。
だってこんなときにまで、難しいことは考えていたくない。