+++アンニュイ+++
□にがつじゅうよっか。
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にがつじゅうよっか 神楽編
心なしか店内が華やいでいるのを横目にコンビニに入っていつもの菓子売り場の一角、駄菓子コーナーに向かった神楽はいつもの酢昆布の横に並んでいるパッケージに目を止めた。
そういえば入り口の目に付くあたりで派手な宣伝をしていたような気がする。
おかず同様チャラついたものに興味はない神楽だったが、あまりの奇抜さというか製作者の勇気に感動する。入荷するコンビニもコンビニだ。
「…」
無言でポケットを探る。今日は何故か銀時が上機嫌で小遣いを余計にもらえたと思ったら、そういうことだったのか。
指先に当たった硬貨は酢昆布を三箱買っても足りる量で、ヨシ、と呟くと神楽は意気揚々とレジへと向かうのであった。
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「トシちゃん見つけたアル!!」
声と共に突っ込んでくる巨大犬には慣れたもので、土方は反射的に横に避けていた。
直後一秒前まで土方が立っていた位置を白い犬が駆け抜けて、少し行き過ぎてから戻ってくる。
避けていなかったら派手に吹き飛ばされていたのは確実で、実際慣れない頃はよく避け損なってはあちこちにかすり傷を負っていた。
「…よぉ、チャイナ娘じゃねぇか」
そう呼ぶのは沖田に大分影響を受けているからだ。沖田と犬猿の仲である神楽は、軽く片手を上げた土方に眉根を寄せた。
「人の名前はちゃんと覚えるネ、トシちゃん」
「お前がちゃん付けやめたら考えてやるよ」
そういいつつ短くなった煙草を携帯灰皿に放り込む土方にむっと唇を尖らせて、神楽は定春の背中から軽く飛ぶ。
「…っ、お前、本当に突拍子もねぇなぁ」
突然重くなった首の付け根に小さく呻くものの、これにも大分慣れたので文句は言わない土方だ。
急所を押さえられていると言うのに文句も何も言えたものではないし、何故か自分の周囲にはわけの分からない行動をとる人間が多いのだ。
こんな少女のちょっとした気まぐれぐらいに付き合えないほど余裕が無いわけではないと言い訳しつつ、土方は神楽や新八たち年少組には甘い。