+++アンニュイ+++

□さんがつみっか
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+++さんがつみっか。+++

梅が咲き終わる前に桃が咲き出した。

早いものでもう三月に入ってしまった。次第に空も晴れる日が多くなり、灰色の冬雲は遠ざかりつつある。

もう直ぐ春が来るのだろう。

土方家に居候中の桂は縁側の硝子戸を閉めて、庭に干した洗濯物を眺めながらそんなことを思った。
実に平和だ。もう少し暖かくなれば硝子戸を開けて、日光浴をしながら茶が飲めるだろう。
なんだか引退後の日々のようだ。過激派攘夷志士には似合わない。

「洗濯やってくれたのか?」
「あぁ…まだ寝てていいんだぞ」

からりと背後の障子が開く音がして、今起き出して来たらしい男を桂は軽く振り返って答える。紺の浴衣を半ば羽織るようにして、適当に帯を結っただけの土方だ。
肩骨が黒に近い青の生地から半分ほども露出している。鎖骨のくぼみに昨晩つけた赤い跡を見つけて、桂は反射的に赤面するとぎこちなく首を前へと戻した。

どうも事前より事後の方が気恥ずかしいと思うのは自分だけだろうか。事に及ぼうとするのに恥ずかしがっている余裕など無いせいなのかもしれない。

まだ半分くらい頭が起きていないらしい土方は、慣れているせいなのか血圧が上がっていないせいなのか、そういうことには思い至らないようで、自分だけがどぎまぎしているのかと思うと少し悔しい桂である。

「これ以上寝てたら夜になっちまう」

大きく背を伸ばす土方は、欠伸で浮かんだ涙を拭うと部屋へと戻っていった。なるほど、既に昼に近い時間帯ではあるが、明け方まで眠らせてもらえなかったものだから土方の正味の睡眠時間は五時間程度だ。
日々の激務に睡眠時間を削り取られている土方にとってはそれでも長い方だという。

元々睡眠とはあまり仲良くなれない体質だとは言うが、無理をさせてしまったと終わった後にぐったりとそのまま眠ってしまった土方を見て大変桂は反省した。だから今日は朝から起き出して、炊事以外は洗濯・掃除・ゴミだし、と家事をしていたわけだが。
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