+++アンニュイ+++

□残り火
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宵の口といっていいだろう。

太陽が沈みきったまだ幾許も無い時間だった。
空を見上げるともう大分暗くなっている。僅か残された橙を押しつぶすように闇色が押し寄せてくるのが恐ろしいほどだった。

仄かな夕闇は彼方へと押しやられ本物の夜が降ってくる。

反射するネオンがなくなったのにようやく気がついて高杉は目深にかぶっていた編み笠を下ろす。

遠く、翳り落ちた陽がビルの彼方で夜に食われた。

断末魔を聴いたような気がした。



+++残り火+++



久しく夜歩きをしていなかったので、玄関口まで来るのに少し神経を使う。
土方の自宅は屯所の直ぐ近くにあり(緊急招集のためだそうだ。)、屯所はごたごたが多いからだろうか。花街や繁華街に程近いところにある。
どちらも結局人通りが多い場所である。人が増える夕刻は近づこうにも周囲の人間に止められるのだが、

―――スリルがあって良い。

本人がそう思っているのだから、手に負えない。

それでも右から左に聞き流してきた高杉であったが、最近は桂が直々に説教をするようになったのでそうもいっていられなくなった。
江戸にいる間、高杉をかくまっているのは、同じお尋ね物同士の桂だったものだから。一応の恩義は感じているのだ。自分勝手とさんざ言われる性格ではあるが。だが矢張り、その基準というものは他人に比べて随分低い位置にあるのだろう。何だかんだ言って結局隠れ家を抜け出してきた。桂の目が離れた隙を縫って。

「今日は大規模な捕り物があったらしい―――出歩くなよ」

煙管を吹かしてぼんやりしていた高杉が土方に逢おうと思ったのがその一言だと知ったとしたら、桂はさぞかしや自分の言葉に悔やむのだろう。
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