+++アンニュイ+++

□夜叉と死神
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戦場は喧騒に満ちている。

断末魔、雄叫び、どれも耳障りだ。

聞いていたくないのに自分が刀を握ると自然にそれが生まれてしまう。
だから時折、どうしようもなく苦しくなる。

なにがしたいのか分からなくなりそうな気がする。がむしゃらになりすぎて、足掻けば足掻くほど足をとられた泥沼は深くなり、出口が遠くなっていく気がする。

―――苦しい。

魅入られている。
そう思う。

抜いた刀はドロドロになっていて、全身に浴びた血が乾く感覚はまだ遠い。
白かったはずの髪は最後に切った天人の血を浴びてしまって、ぽたぽたと銀糸の先端からひっきりなしに雫が落ちてきている。
真正面から浴びてしまったからしばらく視界が利かなくなってしまった。戦場では致命的だけれど、今斬ったのは最後の一匹だったと思うからしばらくは大丈夫だ。

長時間の戦闘後だった。

引き上げる最中に違う部隊に遭遇し、少数だったため本隊には先に戻ってもらった。
数が少なかったとはいえ、希望通りひとり残していってもらえたということは、それだけ自分が信頼されているということだろうか。
消耗が激しく、殿が勤められそうなのが銀時と桂くらいしか居なかったせいもあるだろうと思うと笑うことも出来ない。

「……つかれた」

ぽつりと呟いて、着物が汚れるのも構わず形成されつつある血だまりにしゃがみこんでしまう。
刀を直ぐ横に放ってしまって、地面に投げ出したはずの手のひらをじわじわと生温いものが浸していくのが不快だった。
くらりくらりと暴れすぎたせいか、神経がまだ高揚しているのか、視界が歪む。

何もかも真っ赤になってしまったらこんな眩暈に悩まされずにいられるのだろうかと思いかけ、苦笑した。

矢張り正常ではないのだ。
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