+++アンニュイ+++
□夜叉と死神
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魅入られている。
そう思う。
何にかは分からない。
だが良いものではないだろうと思う銀時だ。
夜陰に乗じて手を伸ばすそんな類のものが白昼の今、この非日常極まりない銀時の日常にふと自ら作り出した血溜まりの中、静かに正常を侵食していく。
熱に浮かされているような気がするのだ。
正常と異常の上を行ったり来たりする感覚。
浮遊感。
酷く酔っているような。
手を伸ばされている。
背中を押されている。
そう感じるときがある。
戦場には正気などというものはほとんど残っていないのだけれど、自分の症状はとみに酷いのではないかと、銀時は目元にこびり付いた紅をぬぐって苦笑した。
自分の意思で刀を振っていると思うのに、短調な繰り返しは次第に思考の入り込む余地を奪っていくのだ。
白夜叉、と呼ばれる自分は超人のように思われているらしいのだけれど、味方を斬っていないのが可笑しいほどだ。
―――これでは単純な生存本能に突き動かされているだけの狂人ではないか。
……だからきっと、夜叉、なのだろう。