+++アンニュイ+++

□記憶、あるいは
1ページ/10ページ

珍しいものが出てきたと思った。

物置―――ではない。

部屋につけられた押入れは見れば見るほど混沌としていて、物置以外の何者でもないように思えたけれど。

その中で一冊の本を見つけて、近藤は傍らでこまごまとした物をいっそ豪快にゴミ袋の中へと放り込んでいる土方を手招いた。
シャツ姿の土方は、今ばかりはトレードマークとなっている煙草も吸っていない。
冬だというのにシャツの袖まで捲り上げて、熱いのか胸元まで開いている。
首を伝った汗の珠が白い生地を肌に貼り付けている光景はそこだけ夏から切り取ってきたようだった。

「何だよ、近藤さん。こっちは未だ忙しいんだけど…つーかあんたの荷物じゃねぇか。あんたも働けよ」
「すまんすまん、だが俺じゃあ捨てるに捨てられなくてなぁ」
「ったく、俺はあんたの嫁じゃねぇんだぞ…」

溜息をつきつつ、首にかけたタオルで額に浮いた汗を拭う。
近藤の押入れは四次元うんたらではないはずなのだが、出しても出しても奥からやたらと荷物が転がり出てくる。
何故今の時期に片付けるなどと言い出したのか分からないが、年末になってしまえば真選組は警備に駆り出され東奔西走することになるのだから、今のうちに出来るものはやってしまえばいい。

そう思って手伝うことにしたのだけれど、考えが甘かったのだ。
もう小一時間もこうして要るもの要らぬものを分別しているけれど終わりは未だ見えない。おまけに持ち主の近藤がなかなか要不要を決められず、それにまつわる想い出を喋りだすものだから一向に片付く気配も無かった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ