+++アンニュイ 弐+++

□暗黒寓話 -あかいろひいろ-
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母は愛してくれなかった。誰も愛してくれなかった。

小さな世界で息をするよりも自然に朽ちていくのだと幼い心で思っていた。
欠損した精神を健全でない体に宿して、ただ障子の向こうに広がる色を眺めていた。

他には何も無かった。
他には何も与えられなかった。





母は美しい人だった。

黒くつややかな長い髪に銀の簪の良く似合う人だった。
白い肌に濃い色の着物を重ねるのが好きで、臙脂の小袖は彼女に映えた。
淡い紅色の唇にすっと通った眦。
昔は小町と呼ばれたらしかったが、土方と母親が暮らした場所はいい加減に田舎に近い町だったので、それは江戸の風習をなぞらえた一種遊びのようなものだった。

土方は母親に似た。

父親はどちらかといえば色素の薄い人で、日に焼けて色の抜けた髪は光が当たると茶金色にまたたいた。
柔和な人だった。
少したれ気味の目尻は笑うと細まって糸のようになった。

母は父のことを愛していた。
愛しすぎるくらい愛していた。
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