+++アンニュイ 弐+++

□暗黒寓話 -きんいろのおもいで-
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沖田が近藤に拾われたのは、秋の終わり、もう直ぐ冬が来るという間際のことだった。

沖田は末息子だった。
家族は多く、一応侍ではあったが幕府なんて傾いていたしのっとられかけている。
そうそう楽に食べて行けるはずもなかったが、武士の子を丁稚に出すわけにも行かない。
食うものに困って親戚中たらいまわしにされていたのだ。物心もついている年だったから、どうして自分がそういう状況に置かれているのか沖田には充分わかっていたけれど、だからといって耐えられるかといえば別だ。

辛くなったせいか、郷愁か。

親類の家を飛び出したのは良いが、行く当てもない。家に戻っても叱られてまたどこぞに遣られるだけだ。

そう、途方に暮れていたときに、近藤に拾われたのだ。

拾われた、というよりも保護された、というほうが正しい。
何しろ夜半に差し掛かろうという時刻だった。夜中の町は時勢がら物騒だ。

「お前、迷子か?」

飛び出してきたから、迷子ではなくて家出だろう。
ふるふると首を振ると、じゃあ、今日はとりあえず家に来るかと手を差し伸べられる。
どこにもいけず沖田がぼんやりとしていたのは盛り場の近くだったから、子供ひとりでは確かに危ないだろう。けれど途方に暮れていたとはいえ、躊躇するような言葉に素直にその手をとったのは、近藤の滲み出る人柄の故だったと今はそう思っている。
どちらが子供だか分からないような屈託のない笑顔で手を伸べられたら、誰だって信じるだろう。

近藤は、そういう人だった。

足下が冷えてじくじくとした。
感覚がないとまでは行かないが、そういう季節が直ぐ其処まできているのだ。

すり抜けていく風邪が冷たい。
着のみ着のままで飛び出してきた沖田がひとつくしゃみをしたら、直ぐに気がついて近藤は着ていた紺の羽織を被せて、それからくしゃりと頭を撫でてくれた。

大きな暖かい手だ。安心する。

提燈の灯りに照らされる男の横顔を見上げながら、

(―――随分子供の扱いに慣れてんなァ)

嬉しいくせに、沖田は心中そんな憎まれ口を叩いた。
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