+++アンニュイ 弐+++

□Figlio Perdute
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早く終わることだけを、こういう仕事の時は考える。こういう高層ビルは和式邸宅より守りやすいことは確かだが、しかし手段を選ぶことのできる敵に対して、自分たちの出来ることは限られている。どれだけ手を尽くしても、万全とはいえない。

だが上は絶対を求めてくる。

重圧は、いつでも有る。
投げ出すことは出来ない。

小さく息をを吐いて、土方は上を見上げる。灰色をした天井の向こうに鉄製の扉がある。屋上へと繋がる扉だ。そこに近藤が最終確認をしにいっている。

無性にその顔を見たかった。

近藤は本来こういう細かい仕事には向かない。計画を立てて忠実に実行するよりは、その時々の感情に従う直情的な、よく言えば素直な男だ。だがその素直さはこの真選組という組織にあっては何よりも重要なことなのだ。

近藤は、近藤のままがいい。

だから自分がここにいるのだと、土方は思っている。

自分の存在意義が其処にある―――――

不安定になるたびに、何度も螺旋階多分を下っていこうとする思考をそうやって引き上げているのである。だがそう思う一方、それは自分が近藤を利用しているということなのかも知れない。ふとした瞬間に湧き上がる感情に、未だ土方は上手く蓋が出来ないでもいた。


きしんだ音を立てて開いた向こう側の空は、成層圏の青色をしていた。
屋上はやはり風が強かった。立ち並んだビルが風の通り道をそれだけ捻じ曲げているのだろう。立っているのも大変だ。隊服の裾がばさばさとはためいて煩い。大分空気に棘がなくなっているのが救いだった。一月早かったらとても堪えられない。
もう少しすればコートを羽織らなくても外を歩けるようになるだろう。そうすれば次は夏だ。日々は思うよりもずっと早く流れていこうとしている。
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