+++アンニュイ 弐+++

□観察記録
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昨日の夜の記憶があいまいなのは実はよくある話だ。酒を飲んで、そのままなだれ込む。相手は日によってまちまちだ…というとも自分は酷く不実な男(そうでなければ娼婦だ)のようではないかと思うが、そもそも自分が望んでなった状態ではない、というとそれはいささか言い訳くさいような気がする。結局許したのは自分なのだと分かっているから頭が痛い。大体こんな状態(考えたら軽く四股だ。)では相手が怒るのではないかと思うが、日常的な小競り合いの範囲で済んでいて(しかも今日は誰が自分の相手をするかという小競り合いだ。まったく持って信じがたい神経である)、結局四人とも大なり小なり不満はあっても現状に承服しているのだから現状の改善はなされないのかもしれない。



+++観察記録+++



目を開けたら頭上に煤けた天井があった。いつもの自室の天井だった。あまり長く眠ってはい居なかったのだろう、身体が重い。特に腰が決定的に重い。客間を提供しているというのに、男たちは皆この部屋に押しかけてくるのだ。細く長い息を吐いて寝返りを打つと、その男が視界の丁度中央に来た。

「起きたか」

まだ判然としない視界の中央、それでも目は合ったようで男はそう言って、咥えていた煙管から薄い唇を離してそう聞いた。自分は目を開けているのだから、聞かなくてもよさそうなものだと思いつつも緩慢に頷いてみせると、頷くか頷かないかという程度の肯定だったというのにそうか、といって男はまた煙管を咥えて紫煙を吐いた。そっけないように思えるが口元にはうすらと笑みをはいている。
外はもういい加減に明るい時刻だ。今日はうすぐもりなのか障子を通って入り込んでくる光はどこか弱弱しく、逆光で男の顔が見えないということはなかった。見づらいことは確かだが。
起き上がろうと腹筋に僅かに力を入れてみたものの、頭蓋の中で眩暈に光景が歪んだだけだった。ちらちらと男の着ている紅い着物が視界の中で振動して残像を描いている。金糸銀糸で縫い取られた派手な模様が男の肌を包んでいる。

「…高杉」
「おぅ」

ぽつんと名前を呼ぶと、また一寸口をつけていた煙管から薄い唇が離れる。どうした、と続くからゆるく土方は首を振った。また眩暈がする。血がどうも足りていないようだった。定期検診の際にまた増血剤を出されるのかと思うと自然に眉根が寄る土方である。
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