+++アンニュイ 弐+++
□冷たい手 前
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触れる身体はどこもかしこも冷たい。
元々の肌色が白いから余計にそう思うのだろうかとも思ったが、何より土方は凍えてていた。格別に冷えた夜だったのだ。そんな中、水をかぶって履物も履かず放浪していれば凍えて当然だ。
あの後直ぐに、土方は意識を失った。
体力が元々有るとはいえない男だったのだ。そのまま担ぐようにして高杉が土方を連れ帰ったのは、土方の私宅だった。
おととい共寝した布団は桂が干していたはずだ。
暖房器具を片端かにら集めて点火しながら、とりあえず湿っている着流しを夜着に着せ替えて布団に放り込む。
発熱が始まっていた。
身体が少し落ち着いたからだろうと高杉は思った。
+++冷たい手+++
頭の中で割れ鐘が乱打されている。
煩い。
振り払おうとして軽く頭を揺らしたら、たちまち頭痛が襲ってきて眉間に力が入る。
薬で誤魔化してしまいたい、が、その前に目蓋が一向に開こうとしなかった。視界は黒と赤とを行ったり来たりしている。
―――――苦しい。
呟いたはずの声は耳に届かず、その代わりのように、
―――――ろ、し
誰かの叫ぶ、声がした。
誰が叫んでいるのかは分からない。
女の声であったり、子供の声であったり、老人の声であったりした。
全く知らない声かと思えば、そうでもないような気もする。
だから余計に、発熱して動かない思考が混乱していく。
「っ、あ…」
喉の奥からは掠れた声しか出すことは出来ない。ゆるゆると頭を振ったのに、声は一向に離れていかない。
それは頭の中で生まれているからなのだろうか。
頭痛が酷くなっただけだ。頭の中を走る血管の収縮と拡大が分かるかのように、心臓の鼓動が増幅されたように聞こえた。