+++アンニュイ 弐+++
□かわいいひと。
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土方の朝は早い。
大体五時半から七時の間に三回は目覚まし時計が鳴る。冬など夜とも区別がつかない時間である。そんな時間に起床するのは清掃員か早番のコンビニ定員くらいのものだ。新聞配達員はもっと早いだろう。
土方の私宅と職場である屯所とは徒歩で五分程度の距離しかない。始業は八時半だ。一番早い目覚ましからたっぷり三時間は時間があるわけで、極端に言えば起きるのは七時半でも構わない。五時半になんて起きられるのは隣で眠っている高杉以下三人には安眠妨害以外のなにものでもない。それぞれその前の晩は土方の安眠妨害をしているからトータルでどっことなのかもしれないが。
それでも土方は高杉たちがなんといおうと五時半には一番最初の目覚まし時計を慣らし続ける。
その理由は―――――始業に間に合わないからである。
土方は稀に見る、いっそ見事なほどの低血圧であった。
+++かわいいひと。+++
低血圧だけでは収まらない、その上に低体温と貧血症がつく。総括すれば不健康だ。
貧血症は単に土方が偏食気味で、小食なせいもあるだろうが、三拍子揃うとどこの少女漫画のヒロインだと言いたくもなる。今の少女漫画のヒロインはたくましいので、一昔前の、と上につけなければならないかもしれない。
だが土方は、ふらりと儚げに倒れるような芸当は出来ない。
冬の彼は危険だ。
気温が下りすぎると前触れもなく倒れる。それまで無表情で(多少顔色は悪くなるが、元々肌が白いので判別がつかない)何事か作業していたというのが突然倒れる。
体温が下りすぎるせいなのだという。屯所でも何度か倒れたことがあるらしく、冬場に私宅に戻るときはマフラーやら上着やらをわんさか着せられていた。おそらく近藤・沖田あたりの仕業であろう。
加えて冬の朝の彼はいっそ獰猛だ。
冷え性も当然のように患っている土方は布団が奪われようものなら問答無用で攻撃を仕掛けてくるのである。勿論無意識だ。リミッターなんてものは外れてしまっていて、寝相の悪い銀時と坂本が何度かそれの犠牲になった。
本気で落とされる(元々眠っていたから意識は無いのだが)どころか首の骨を折られかけたらしい。猛獣だ。桂は逆に棺桶の中に収められた死人のようにぴしっと身体を伸ばして眠っているため、抱き枕にされている。役得だ。