+++アンニュイ 弐+++

□一周年記念小説
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土方が風邪を引いた。

あまり軽くはない風邪だった。

実際土方は風邪を引くことが多い。
冬になると一度は絶対風邪を引くし、夏になると二度は体調を崩して寝込む。
食事がちゃんと出る(といっても土方はまじめに三食食べていなかったらしいが)屯所ですらこうなのだったが、共同生活者(同棲というのが嫌だという土方の精一杯の抵抗である。)ができてからはそれもそこそこ収まっていた。
なるほど、家事に全く貢献しない人間がいるなら炊事洗濯なにもかも土方がやってやらねばならないし、そうなると自動的に朝と夕方は何かを作ってやらなければならなくなるのである。何だかんだいって面倒見はよいのが仇だ。

しかしそのためか、久しぶりにきた波は大きかった。

積もり積もっていた疲労が、普段の年に最低三回の風邪で発散されるところがされずに蓄積されてしまった結果、大爆発してしまったらしい。

最初に気づいたのは高杉だった。

気がつかないはずがない。何せ同衾していたのだから。
その日土方は、早朝五時半になる最初の目覚し時計を止めても何も反応しなかった。大体そのころに眠りが浅くなってくるはずなのだが、二番目と三番目の目覚ましを止めても何も言われないどころか全くの無反応だった。寝苦しいのか何度も寝返りを打つのに一向に眠りは浅くならないようだ。
初めのほうこそ擦り寄ってきた土方に触りたくっては満足していた高杉だったが、しがみつく手に触れた瞬間にさすがに違和感に気がついた。

夏場とはいえ、朝方は多少気温が低い。

それに連動して体温も低くなるものだから、夏場は特に生体クーラーとして土方は重宝される。本人にしてみれば暑いだけなのだが。

「…おい?」

裸の胸元に擦りつけられる頬をぺちぺちとはたくと、むずがるように短い髪が左右に揺すられる。その動作すら酷く緩慢で、何より手をあてた頬の熱さに驚いた。

「おい、土方?」
「…んん」

ほとんど肩に引っかかっているだけの着流しがするするとゆるやかな挙動の度に剥がれていく。短く呻き声を上げて、すぅと開かれた少し腫れぼったい瞼の下。

現れた淡い色をした瞳は、ぼんやりと焦点を失い潤んでいた。
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