+++アンニュイ 弐+++

□拍手詰め合わせ
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壁に押し付けられた際にぶつけた肩甲骨がみしりと音を立てて眉根を寄せる。咳き込んだ拍子に食んでいた煙草が地面に落下して、足元で煙を上げている。
夜目にちらりと光る赤いその先端を草履が踏んで黒に潰した。直ぐ向こう側の通りで仲間が捕り物をしているというのに喉を捕まれて声が出せない。
直ぐ上に追い求めた男の顔があった。
安っぽいネオンサインの光を反射して青に、赤に、金色にちらちらと隻眼の色が変わる。嘲笑うように吊り上げられた口の端に加えられた煙管を開いた片手でつまみとって、とん、と灰を落として懐に仕舞う。拷問の時間の始まりかと思うと睨む力もこもろうというものだった。
しゅるりと音を立ててスカーフが引き抜かれ、首を掴んだ男の手を阻止すべく伸ばしていた手をあっさりと縛り上げてしまった。器用にもほどがある。あっけにとられた一瞬で凶悪な笑みを浮かべた顔が迫ってきて、硬直したのを笑われた。
薄い男の唇から紅い舌がちらりと覗く。
「表が静かになるまで、騒がれちゃ困るんでね」
一人で路地裏まで追ってきたのが運の尽きだぜ。反論する前に唇がふさがれている。

畜生と叫んだはずの言葉は相手の口の中に消えて、唇が離れた後は銀の糸になっていた。
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