連載

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ピンクでスイートで超キュート!


++苺オレ・1++


屋上へと通じる、少しサビ気味の扉を押し開けて、ミーは外に出た。
途端に広がる青空。
「今日もいい天気だなー」
ミーは伸びをしながら、いつもの場所――貯水タンクの上だ――に登った。
すると、いつもは見かけない人の姿が。
「お前、誰?」
寝そべった体勢のまま、気怠げに問いかけられた。
「アンタこそ誰ですかー?」
ノータイだから分からないが、一年では見ない顔だ。……と言うか、こんな突飛な人、一度見たら忘れないだろう。
ブレザーの代わりに羽織っている、キャメル色のカーディガンに、身体が細いせいで必要以上にだぼついて見えるチェックのスラックス。学校指定のサンダル。
何より目を引いたのが、髪型とその頭に乗ったものだった。
前髪を目の下まで伸ばし、ふわふわのパーマでアレンジされたヘアスタイル。その頭の上に、繊細な作りのティアラが乗っていたのだ。
(この人、頭大丈夫かなー)
「お前、ネクタイがエンジだから一年だろ。オレのが一個上だから、お前から名乗れ」
「はいはい、分かりましたよ。ミーは1Aのフランです」
「オレは2Cのベルフェゴール」
「……」
「……で?」
「ミーいつもここでサボってるんですよねー。だから場所、空けて貰えません?」
「はぁ?何言ってんの?ここはオレの場所なんだけど」
話をしたら、どうもミー達は上手い具合に行き会わないタイミングでお互いに今までここを使ってきたらしいのだ。
それがたまたま、今日は鉢合わせしてしまった……と。
「話は分かったんで、いい加減どいて欲しいんですけど」
「ふざけんな、お前がどっか行け。先輩に盾突いてんじゃねーよ」
「あーあ、こう言う時に年上なのを出してくるなんて、センパイって小さいですねー」
仕方ないので、ミーはその場に体育座りをしてカーディガンのポケットから紙パックのジュースを取り出した。
ストローを刺して、ちゅーっと一口飲む。
辺りに、うっすらと甘い香りが漂った。
「ここは普通どかねー?……てか、いいもん飲んでんじゃん。少しよこせよ」
「嫌です」
「即答かよ」
ミーは内心してやったりな気持ちに浸りながら、ジュースをちびちびと飲み続けた。
苺牛乳。
ミーはこの人工的な苺の味が妙に好きで、自販機の前に立つと、つい買ってしまうのだ。
我ながら少女趣味っぽいと思いつつも、やめられない。
ぼんやりしながらもう一口飲もうとしたら――パックが手にない。
背後に気配を感じてバッと振り向くと、そこにはベルフェゴールセンパイの姿が。
そしてその手には、ミーの苺牛乳。
「もーらいっ♪」
「返して下さいってばー!」
完全に油断した。
ミーはどちらかと言うと人の気配に敏感なタイプで、隣に寄られただけですぐに気付けるのに。
(この人、気配の消し方を知ってるんだ)
ミーは初めて、目の前で嬉しそうに苺牛乳を飲むセンパイを怖いと思った。
……が、このままで終わらせるミーじゃない。
「返せって言ってるでしょーがっ」
隙を突いて、腕を伸ばして奪い返そうとするも、センパイの方がずっと身長が高い上に腕も長い。全く歯が立たなかった。
「返して欲しけりゃ、後十五センチは身長伸ばすんだな」
ムカ。
人が気にしていることをいちいちほじくりやがって。
「うるさいです、よっ」
ミーは思いきり跳び上がって、センパイの手からジュースのパックを取り返した。
途端、バランスを崩して着地に失敗し、センパイを巻き添えにコンクリートの上に倒れ込んでしまう。
――ちゅっ。
「うわわわわわっ、すっ、すみません!」
なんと、センパイを下敷きにした時に、唇同士がくっついてしまった。
ミーは急いで起き上がり、センパイの上から身を引く。
「お前、顔真っ赤」
ししっ、と独特な笑い声を立ててミーをからかってくるセンパイに言い返す言葉もなく、ミーは貯水タンクの上から飛び降りて走り去った。

+ + + + +

「あんな一年いたんだ」
今までちっとも気付かなかった。
まあ、あいつもオレと一緒でサボり魔みたいだし、行き会わないのも当然っちゃ当然か。
何と言うか、見た目にまずツボだと思った。
次いで、あの一筋縄ではいかなさそうな性格。バッチリ好みドストライク。
身長が低いのも、大き過ぎる紺のカーディガンを羽織っているのも、そこからちょこんと出た指先で苺牛乳を持つ姿も可愛かった。
「からかったら、意外に子供っぽかったりして……ししっ、ハマっちゃいそうかも」
フラン……か。
次に会ったら、オレ様直々に落としにかかるから、よーく覚悟しとけよ?

To be continued.
2010.01.03

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