連載

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ピンクでスイートで超キュート!


++苺オレ・3++


――なあ、今週の土曜日ヒマ?
ついさっき、屋上で別れたセンパイに言われたことだ。
別に用事なんてなかったから、「暇ですけど」と答えたら、勝手に一緒に出掛けることになってしまっていた。
(これって、デートとか?)
先程まで、テディベアを抱えるように抱き締めてきていた温かい腕を思い出して、一人赤面する。
(純粋な遊びだ、期待するな、ミー)
ミーは、恋愛対象としてセンパイが好きなんだと気付いてしまった。
その時から、あの抱き締めると言う約束が胸を締め付ける。
嬉しいような、悲しいような。
どんな思いでこんなことをしてくるんだろうと思ったら、胸が苦しくなるのだ。
「いけないいけない。考えるのはよそう」
今は、出掛けられる幸運だけ喜んでおこう。

+ + + + +

「あ、れ?センパイ……?」
待ち合わせ場所の駅前に、ミーは三十分前に着いてしまったのだが、既にセンパイが時計台の下に佇んでいて。
慌てて走り寄ると、ニイッと笑って手を振ってきた。
「センパイ、いつきたんですかー?」
「んー、今きたトコ」
「まだ三十分前ですよ?」
「ししっ、お前だって同じじゃん」
センパイが歩き出したので、横に並んで一緒に歩く。
「ミーは準備が早く終わったからきてみてただけです」
そんなの嘘だ。
本当は、出掛けられるのが嬉しくて、早く目が覚めてしまった。それに、何だか早く行っておいて、センパイを待っていたかったのだ。
だが、予想に反してセンパイは先にきており……。
(ちょっと落ち込むかも……)
センパイの私服姿は初めて見た。
黒のジャケットに、柄の入ったロンT。ダメージ加工を施したジーンズにエンジニアブーツ。シルバーのごついネックレス。
思っていたより、ハードなファッションかも知れない……と思っていたら、センパイと目が合った(目が見えないから分からないけれど、こちらを向いているからそうだろう)。
「お前、私服もいいな」
「そうですか?」
対するミーは、髪を後ろで一つに小さく結び、ワイシャツにチェックのネクタイをリボン結びにし、膝丈の黒いパンツに編み上げブーツを合わせたゴシックテイストのファッションだった。
「センパイの方が、恰好いいと思いますけど」
……と言うか、「私服『も』」と言うことは、制服もいいと思われているんだろうか。
「オレはいつも店員任せだし」
「言われたのを全部買ってるんですか?」
「まあ、本当に嫌な奴は買わねーけどな」
……こんな買い物の仕方をする人、初めて見た。
「センパイって実はお金持ち?」
「オレが、って言うより家がな」
そうして話しながら歩いている内に目的地に到着したようで、センパイが歩みを止めた。
「オレ、観たい映画があってさ。チケットあっから付き合ってよ」
「いいですよ。で、どんな映画なんですかー?」
「恋愛モノ」
「何だか意外ですねー。センパイならスプラッタホラーとか好きそうなのに」
「それもまあ、好きだけど。今日は特別」
特別。
センパイの発する言葉の一つ一つに期待し、また落胆する。
てっきり今流行のベタな恋愛映画かと思ったら、センパイが観たいと言ったのは「オペラ座の怪人」だった。確かこれは数年前にやったものだから、今回は再上映なのだろう。
「恋愛って言っても、悲恋なんだけどさ」
再上映だからか、はたまた巷で噂の映画に客を取られているのかは分からないが、中はかなり空いていた。
ミー達は、大きなカップに入ったポップコーンを一つと、ジュースをそれぞれ買って、一番後ろの真ん中に座った。
暫くすると館内は暗くなり、上映を知らせるブザーが鳴り響く。
物語は、年老いた男がオークションで品物を競り落とす所から始まる。
そして、シャンデリアに明かりが燈った瞬間、今までモノクロだった映像が息を吹き返すようにカラーになってゆき、時間軸が過去へと移る。
「面白いですね」
「だろ?」
物語が中盤に差し掛かった辺りで、ミーはセンパイに耳打ちした。
初めて観たが、ストーリーが面白い。
「オレはどうなっか知ってるけど、結末もなかなかだと思うぜ」
「楽しみにしておきますー」
「なあ、フラン」
スクリーンでは、屋上で愛を確かめ合う二人のデュエットのシーンが映し出されていて、目が離せない状態だ。
ミーは、声だけで「何ですか?」と返答する。
……と。
さりげない動きで顎を掴まれ、センパイの方を向かされる。
そして、唇と唇が小さく触れた。
「――ッ!」
数秒だけ触れ合っただけで、唇はゆっくり離れていった。
ミーの頬を人差し指でつつき、センパイは何でもなかったかのように再び前を向く。
「ほら、見逃しちまうぞ?」
スクリーンでは、丁度二人が抱き合い口付けるシーンで……。
(うわ、わわわわ……)
ミーはどうにも恥ずかしくなってしまい、視線を泳がせた。
センパイとキス、してしまった。
どんなつもりでこんなことをしてきたんだろう……。
その後の映画のストーリーなど、頭に入ってこなかったのは言うまでもない。

To be continued.
2010.01.10

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