連載

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ピンクでスイートで超キュート!


++苺オレ・4++


映画館でキスをした日から、もう一週間以上経った。
あの一件以来、ミーは屋上へ行かなくなった。
否、行けなくなってしまった。
移動教室も時間ぎりぎりまでクラスにいたし、購買にも行かなくなった。登下校の時間も、わざとずらしてセンパイと会わないようにしている。
どんな顔をしてセンパイに会えばいいのか分からなかった。
あの日はどうにかやり過ごして帰ったけれど……。
「フラン、お客さんだぞ。……お前、なんか目ぇ付けられるようなことでもしたわけ?」
そんなクラスメートのひそひそ声に、教室の扉の方を見てみたら、ベルフェゴールセンパイが立っていて。
(どーしよう、行かないのも変だし……)
「お待たせしました。何か用事ですか?」
「ああ。今から上にこい」
上とは、屋上のことだ。
「分かりました」
背中で五時限目のチャイムを聞きつつ、ミーはセンパイの後を追うように屋上に向かった。

「――で、オレに何か言うことは?」
「別にありませんけどー?」
「じゃあ訊くけど、何でオレのこと避けてんだよ」
「……避けてませんよ」
「嘘吐け、避けてんだろーがっ」
センパイはミーの肩を掴んで、壁に押し付けた。
背中は壁、前にはセンパイ……身動きが取れなくなった。
ミーは俯いて、センパイの顔を見ないようにするも、センパイがそれを許さない。片手で顎を掴まれ、無理矢理に上向かされた。
言い訳も言い逃れも出来ない雰囲気に、ミーはそれでも無言を押し通した。
「どーせ、お前もオレが迷惑なんだろ。もう付きまとわねぇから安心しろよ。じゃーな」
センパイは、感情の読めない声音でそう言って、ミーから離れて扉の方へ歩き出す。
このまま終わりにしてしまいたくない、そう思った。
今自分から声をかけなければ、この先ずっとセンパイと交わることはないだろう。
「違う……。違うっ!」
「フ、ラン?」
「センパイ、行かないで」
ヘタリとその場に座り込み、ミーは耐え切れずに涙を零した。
「行っちゃやだ……センパイ」
うわごとのように「行かないで」と口の中で呟いた。
パタパタと涙がコンクリートに落ちて、じわりと広がる。
そこにフッと陰がさした。見上げると、センパイが目の前に立っていて。
「分かったから、もう泣くな。な?」
「……ミーは、センパイのことが好きだから……だから、センパイの言動が分からなくて。苦しくなる位なら、センパイのことは何でもないんだって思おうとしてました」
「フラン、お前……」
「センパイは、ミーのこと……どう思ってるんですか?」
ミーはカーディガンの袖口で涙をぐいっと拭い、センパイのことを見つめた。
するとセンパイは、ミーの前にしゃがんでミーのことをぎゅうっと抱き締めてきた。
「好きでもない奴を抱き締めたり、それにキスしたりしねーよ、オレは」
言葉を切って腕の力を弱め、お互いの額と額をくっつける。
「フラン、お前が好きだ」
言って、唇に小さなキスをされた。
「じゃあ、ミー達って……」
「両想いってことになるな」
ニイッと笑って、センパイはミーの涙の跡を親指の腹で擦る。
両想い。
今度は、感極まって涙が出てきた。
「センパイ、大好き」
そんな涙を隠すために、ミーはぎゅっとセンパイの胸元に抱き付いたのだった。

End.
2010.01.15

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