あれから、更に沢山の初めてを知った。


意外に几帳面な事

寝相がとても良い事

だけど朝はビックリするほど弱い事




―そして

この男が恐ろしく我侭で、甘えたがりだという事も。







「……どうして貴方までついて来るんですか」
「アンタが俺以外のヤツと飲みに行くっていうからに決まってるじゃない!しかも二人きりだなんてさ。コレは浮気ですよ、ウ・ワ・キッ」
「はぁっ?!」
「まぁまぁ、お二人とも落ち着いて…」



俺を見かけると所構わず引っ付いてくるカカシの所為で今や2人の仲は里中に知れ渡っていた。
それは当然三代目の耳にも届いてしまい、寄りにもよって…、とその人選を何度も嘆かれた。



今夜はあの合コンを企画してくれた同僚と一緒に飲む積もりだった。
自分を元気付ける為必死で女のコ集めに奔走してくれたというのに、結果的には彼の好意をムダにしてしまい少ながらず罪悪感を抱いていたのだ。

それとなく同僚に探りを入れてみたら、案の定あの女の子に詰られた事を苦笑いを浮かべて話してくれた。
多少なりとも好意を持った相手が合コンの翌日には自分以外の、しかも同性と付き合い始めたというのだから、怒りたくなるのも当たり前の事かもしれない。
しかし同僚にしてみればとんだとばっちりなワケで、その謝罪の意味も込めて、酒でも一杯奢ろうと思っていた。


それなのに…




「センセの側を離れないって言ったデショ?俺以外の男になんかヘラヘラ笑顔振り撒いてんじゃナイってのよ」
「なっ?!それじゃまるで俺が媚売ってるみたいな言い方じゃないですかっ」
「何よ、違うワケ?」




居酒屋のカウンターに険悪なムードが流れる。

俺の右に同僚のマキノ。
そして左隣には不機嫌さを全面に押し出したカカシが、膨れっ面で座っていた。



「はたけ上忍安心してくださいよ〜俺、最近恋人が出来たばっかで今すっごいラブラブなんです。イルカの事なんてこれっぽっちも…」


そうなのだ。
マキノは自分の企画した例の合コンで新しい恋人をゲットした。
どうやら発起人の権力でずっと好きだった女の子を誘っていたらしい。



「そんなの当たり前でしょーが。もし俺のイルカ先生に手ぇ出しでもしたら、どーなるか分かってんでしょーね」
「カカシ先生!イイ加減にして下さいッ!!」



場を治めようとしたマキノの言葉に棘のある返事が返る。
余りの傍若無人な振る舞いに、人前であるのも忘れて怒鳴り声を上げてしまった。
途端店内の視線がバッと此方へ集中した。



「フーンだ、先生だって俺にメロメロなクセしてさ。ココまでツンデレだとコッチが苦労しちゃうよね」
「〜〜〜ッッ!!??(ツンデレって何だ〜〜ッ?!)」


独り言とは思えない音量でぼやきながらカカシが大きな溜息を吐く。
店中の客がヒソヒソと何か話しながら此方を伺っているのが分かって、非常に居た堪れない気持ちになった。


「あっ、イルカ先生逃げる気ッ?」


トイレで気持ちを落ち着けようと席を立つと、すかさずカカシが険のある目つきで此方を見上げた。
こっちも負けずにジロリと見下して、「トイレですッ!」と吐き捨て店の奥へと大またで歩いていった。





(ったく色ボケ上忍が…)



現在は上忍師として里に居る事の多いあの男は、本当にしょっちゅう自分の視界の中に居る。
そして周りの者にああでもないこうでもないと一々文句を付けて、俺の周りから排除しようとするのだ。


どうしてそんな事をするのかと怒ってやったら、不思議そうな顔で「だって心配デショ?」と言っていた。


何がどう心配なのか。
心配なのは待機所へも詰めず受付をウロウロしているソッチの方だ。


それだけ想われているといえばそうなのだろうが、このままでは今まで培ってきた友情や信頼が破綻してしまいかねない。
どうにかしてその態度を改めて貰わなければと手洗い場の鏡を睨みながら頷いた。




「なぁにが『苦労しちゃうよね』、だ。苦労してんのは俺の方だっつーの」


「イルカ先生苦労してるんだ…」
「ぎゃあッッ!!!」


誰も居なかった筈の背後に人影が写ったかと思うと、にゅっと伸びてきた腕に抱き込まれる。
同時に不埒な手がアンダーの裾を捲り上げ、進入してきた指の冷たさと手甲の皮の感触にゾクリとした。


「アッ、アンタ何す…ッ」
「先生、俺のせいで苦労してるの?俺の事嫌いになっちゃった?」



下半身を弄る右手とは裏腹、鏡越しに見るカカシの顔はあの日自分に許しを請うてきた時の顔と同じで。
不安げに目を細める姿に居酒屋のトイレでとんでもない事をされているにも関わらず、胸がきゅうとなった。


(偶にああいう顔すんだよな…///何ていうの、放っておけないっていうか)


「って違うだろ!ちょっと止めて下さいよッ!もし誰か来たらッ」
「来ないよ。結界張ったから」


ちゅ、ちゅ、と首筋を辿るように唇が降りる。
下着の中へと進入をはたした指はまだ力の宿らない雄を焦らすようになぞっていく。


「カカシさんっ止めッ」
「ごめんね先生…でもアンタを他のヤツに盗られやしないかって心配なんだもん」


背中に感じる濡れた舌先。
下衣は足元にだぶついて、動きを更に鈍くする。
ざらついた舌に舐め上げられる度、喘ぎを抑えるのに必死だった。


「許すッ!許しますからッ!!早く離し…っ」
「ホントに!?じゃあこのままお家帰ろ?帰って続き、シよーねっ」
「違っそうじゃなくてッ」
「あー嬉しいな♪やっぱりイルカ先生の一番は俺だもんねーっ」



ぼふんっ




次の瞬間目に飛び込んできたのは

ひび割れた居酒屋の鏡では無く




見慣れた自宅の、寝室だった。






*********




「イルカせんせってばベッドの中でならスナオなのにねーvv」
「・・・・・(怒)」


自分を抱き枕の代わりに抱き込んだ上忍は、人の気も知らずゴキゲンでフザけた事をほざいている。


また流されてしまった。
この男は何時も押しが強すぎて、自分の意見を告げる間も与えてはくれないのだ。



…だけど恋人となった今なら、嫌がればちゃんと引いてくれる事を本当は知ってるんだ。
だから結局は自分が甘やかしているだけなのかもしれないと、情事後のボーっとした頭で反省した。



(うう、それよりもマキノだよマキノ…悪い事したなぁ…)



奢ると誘っておきながら顔も見せずに帰ってきてしまった(正確には拉致された)。
勘定もしていなかったのだから、結局彼が支払う羽目になっただろう。

明日は何と言って謝ろう?
それを思うと頭が痛む。


そんなこちらの思いなど微塵も知らないこの男は、感慨深げにうっとりと呟いた。



「ああん、ホントあの日のイルカ先生に感謝しなくちゃ。合コンなんて言ってしまえば単なる乱交パーティーだってのに、よくぞ貞操を守ってくれました!」

「・・・・・ん?」



ちょっと待て。

確かに合コンへは行ったけど乱交なんつー破廉恥な名称のモノ、これまで一度も参加した事無いんですけど。

そいえばあの夜も女性相手にイケたかイケなかったかなどと、ワケの分からん事を言っていたような気がする。


まさか、まさかこの人・・・



「カカシさん、アンタ、合コンをなんだとお思いで?」
「え?だから乱交パーティーのコトでしょ?」

「・・・・・・はぁあぁああぁぁ…」
「何よ俺、何かヘンなこと言いました?」



予想通りだ。
この人、思いっきりカン違いしてる。
どうしたら合コンが乱交パーティーなんてヒワイなモノになるんだよ…



「合コンは健全なタダの飲み会ですよッ!んなモンと一緒にしないで下さい!!」
「えっ乱交パーティーのコトじゃナイの?!でも俺が上忍仲間に誘われて行ったのは」
「上忍ってのは一体どんな合コンやってんですか…ったく」



…つまり、その上忍的合コンで女性と宜しくヤってたワケだ。

過去の話だって分かっているけれど。
やっぱり少しだけ、ほんの少しだけ面白く無い。



「アレ、ひょっとして妬いてます?」
「なななっ何で俺がッ」



カンの良いこの男に気付かれない様、顔には絶対出さないようにした積りなのに。
カカシの観察眼は厭らしい程鋭くて、思わずどもってしまう。

それを肯定と取ったのか、彼は心底嬉しそうな顔でウフフフと微笑んだ。


「だぁいジョーブですよー?その時はヤってませんから。それにもう一生涯、そんなのに行くコトはありませんしね」
「い、一生涯…」
「そ。だって俺はこの先もずーっとアンタの側に居るんだって言ったデショ?」





そう言って俺の額にキスをすると、もう一度蕩けるような笑顔を見せて。
それから耳元に唇を寄せ、ゆっくりと囁いた。




「ね…、また欲しくなっちゃった。センセイの甘ぁいミ・ル・ク・セ・イ・キ」





甘くて美味しい、ミルクセイキ

喉を鳴らして凝っとイイ子で待ってるから


意地悪しないで、僕に頂戴?


甘い甘い、君のミルクセイキ――




end












翌日



「あっマキノ!!昨日は本当にすまんッ!!」
「イイイイルカっ!きっ気にするなっ」
「そう言う訳にいくか!勘定だってお前が払ってくれたんだろう?」
「いっ、いやっ!お前が席を立ったすぐ後にはたけ上忍が支払いして下さったんだよ。だから俺は一銭も払ってないっ」
「カカシさんが?」
「そっ、そういう事だからっ!じゃっ、じゃなっっ!」
「え、あ、おいっ!マキノ!」



同僚は慌てた様子で辺りを見回すと、俺の横から逃げる様に去っていった。


おかしいぞコレは。
原因には間違いなく、あの男が関係しているに違いない。




「…やっぱり態度を改めてもらわなくちゃな…」



俺は怒りに震える拳をキツくキツく握り締め、甘やかすのは暫く止めにしようと胸に誓ったのだった。




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