BlackJack・2

□三日月姫
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捩を巻いて
小さな歯車を回して

ガラス越しの箱庭の中で踊りましょう
ワルツのメロディーを奏でましょう



愛し合う私達の為に






「ピノコ、むやみに触るなよ?」

「わかってゆわのよさ!」

出張先で偶然目についたアンティークショップ
ピノコが見たいとせがんで渋々彼も付き合うように店内に足を踏み入れたのだった

そこはまるで中世の時代に迷い込んだ錯覚を覚えさせる

色とりどりのステンドグラスで作られたランプ
レースを惜しみなく配ったドレスを着た碧い瞳のアンティークドール

それらを物珍しい眼差しを向けながらピノコは店内を歩き回る

「きえ〜らね〜…」

「こんな店があるなんてな」

「何か買って」

「だめだ」

「アッチョンブリケ…」

おねだりを速攻で却下されてピノコはむぅ…と顔をしかめた。

「ふ〜んら…先生のケチンボ」

言いながら近くにあったオルゴールを手にとった

「おいおい…壊すなよ?」

「ピノコはそんなに乱暴じゃありまちぇん!」

ゆっくりと横の捩を回すと透き通るような音色が店内に響き渡る

「…こえ何て歌?」

何処かで聴いたことがあるようなメロディーなのに名前がわからない
ピノコは縋るようにブラックジャックを見つめた

「これは…ヨハン・シュトラウスの“春の声”だな。ワルツだよ」

「ワユツって踊りの?」

「あぁ」

「…うん、なんかそんな感じすゆかも」

ピノコは満足げに微笑むとオルゴールを元の場所へと戻した

「…も、いいよ。いきまちょ?」

「いいのか?」

「こえ以上いたや本当にほしくなっちゃうわのよさ」

困ったようにそう言ってピノコは踵を反した
未練を振り切るようにさっさと店の外に出たピノコを見つめていたがふと音色の止まったオルゴールをちらりと見遣った

彼の手の平に乗るほどに小さいけれど、美しいガラス細工で彩られたそれをしばらく見つめていたがフゥ…と一つ溜息をついて彼はとうとうそれを手にとった

「私もつくづく甘いよな…」

自嘲気味に呟くとそれをカウンターへと持って行った…






「たらいま〜…お帰り〜」

「ただいま」

漸く我が家に着き、ピノコは早速台所へと向かおうとする
その腕をそっと掴んで彼はふわりと抱きしめた

「先…生?」

「おいで」

「う…うん…」

コートを椅子に掛けて外へと導く彼を見つめながらピノコはついていく。

「先生ろうちたの?」

「来ればわかるさ」

「え〜はやくおちえてよぉ!」

しかし彼は意味深に微笑むだけだった
やがて車の停めてある場所まで来ると小さな手に車のキーを握らせてやる

「…なぁに?」

「それは見てのお楽しみだ」

ピノコは不思議そうに助手席のドアを開けて中へ入った

そして舒にダッシュボードをあけた

「…こえ…」

そこには綺麗にラッピングされた小さな箱が一つちょこんと置いてあった
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