短編・中編
□今夜だけ、アクトレス。
2ページ/36ページ
俺に、大学生の彼女ができた。
片瀬由里子、院生の間でも評判の美女だ。
っていっても、けばい感じの美女じゃあなく。
長い黒髪に、生まれたての白い肌。
ないすばでぃの長身なのに、浮かべる表情はびっくりするぐらい幼くあどけない。
決して社交的ではなく、友人はそれなりにはいるらしいが多いわけじゃないし、合コンには絶対来ないことで有名。
まぁ、不思議な感じの美女なわけだ。
で、悩みがある。
「キスさせてくんないんだっけ?」
そう。そうなんだよよくわかったな。
「お前こないだからそればっかだもんな」
だって20過ぎた男女が1ヵ月ノータッチ‥俺も23だぞ、耐えれたもんじゃないだろ。
「あれ由里子ちゃん20だっけか。酒にまかせてとかないわけ?」
酒には頼りたくない。てか、日常的なスキンシップとしてっていうか‥やっぱ距離感が物足りないというか‥
「飢えんなたかちゃん」
いや飢えるとかじゃなく、嫌われてんのか?と。
「嫌われてんじゃん?」
‥‥一応、好きって言ってもらって付き合い始めたんだが。
「勘違いだったんじゃね」
「うるせーなお前はさっきからぁ!真面目に聞きたいんだよ俺は!」
俺はついに爆ぜた。
「黙って聞いてりゃ好き勝手ほざきやがって!なんだお前は読心術でもあんのか!?」
「読唇術?」
「読心術!」
さっきから俺を茶化しまくる、このくそうざい奴は友人で、菅井成道という。
ただ俺も人見知りをする質で友人はあまり多くないから、こいつに話を聞いてもらうことが多い。
「お前口臭きついんじゃね?」
失礼な。タバコも吸わねーよ俺は。
「高谷、口臭のきついお前には酷な話だぞ。――俺は小中9年間“健歯学校代表”だった」
だから口臭きつくねぇよ。それからお前の話は聞いてない。てか、
「俺も健歯の、市の代表だけど」
そう言うと、
「‥俺の姉貴は県の代表だバーカバーカ!お前の歯は所詮ローカルもんなんだよボケがぁ」
菅井がハト胸をそらした。
姉貴なんか尚更知ったこっちゃないし俺より学校代表のお前のがローカルだろうが。
「いやどや顔すんじゃねぇよ」
あほくさくなり、座っている椅子を傾けて遊ぶ。と、ジーンズ越しに振動が響いた。
由里子かな。
「“今おわったとこだよ。今日は会えそうです”――ふーん。なんか、まぁ、普通だわな」
「‥菅井、お前デリカシーをどこに忘れてきた?」
「胎内」
生まれ付きってか。
「取りに帰れ」
「いやー同じ女とはいえさすがにあのしわくちゃおばばの‥あーいやだいやだ考えただけでEDになりそう。あー俺今日合コンなのに‥お持ち帰りで勃ちませんとか笑えねーぞお前ーあっ知ってるか?バイアグラって出回ってるやつの半分は効果ないらしいぞ気を付けろ!」
「知るかよ‥」
俺はそこ以前の問題と闘ってんだよ。
「じゃ、由里子迎えにいくから」
うわその去り際うぜー、と笑う菅井を尻目に、俺はその場を後にした。