短編・中編

□今夜だけ、アクトレス。
3ページ/36ページ



「高谷さん?」

「‥由里子」


由里子は、俺の姿を認めるとにっこりと笑顔を浮かべて駆け寄ってきた。


あーやっぱ‥なんか、違うよな今までの奴らとは。


「ごめんなさい、遅くなっちゃって」

「あーいいよ、レポートだろ?」

「うん‥大塚教授って、知ってます?」

「大塚?」


懐かしいな‥いっつもアーガイルベスト着てる奴だっけ?


「大塚先生ほんと鬼畜なんですよ‥“今から明日の締切まで26時間ありますね?じゃあ52枚は余裕で書けますね?”って‥レポート課題出して翌日締切ってありえますか?」

「ぷっ‥ひでぇな」


でしょー、と眉を下げる由里子。


素直な感情表現が、ほんとにいじらしい。

姿かっこうは大人びてるだけに、そのくるくる変わる表情だけはあどけなくて、不思議な気分になる。


「レポート大変なのに、いいの?俺といて」


そう尋ねると、あ、というような顔をする。


「いや‥えっと、実は」


なぜ口籠もる。


「どーした?」

「あー‥えっと、高谷さん、専攻なんでしたっけ?」

「専攻ってか‥卒論は憲法だけど?」


そう言うと。


「お願いです!!」


ぱん!!と顔の前に両手を合わせて、目をつぶる由里子。


はいっ!?


「な、なにが」


そんなに必死になって、何事ですか!?



すると。


「‥今日の徹夜レポート、手伝ってくださいー!!」


由里子が、両手を合わせたまま頭を下げた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ