短編・中編
□碧と2才
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高1の、夏。
夏休みだけならバイトをしてもいいという両親が、わたしをあるところへ連れていった。
『“渚”にね、千伽をよく知ってる人がいらっしゃるのよ。会いたいって何年も言ってたし、そろそろ‥会えなくなってしまうから』
『あぁ、もうそんな年齢か。早く行かないと、確かにもう会えなくなるだろうな。千伽、部活も入ってないんだろう?バイトだから稼ぎがあるとはいえ、大変だとは思う。でも行ってやってくれないか』
両親が、そういって寂しそうに笑うから、断れなかった。
都会育ちのわたしにとっては、バイトといえばお洒落なカフェとか、ファーストフード店とかそういったものだと思っていたけれど。
16歳の夏休み、沖縄本島の西に浮かぶ小さな離島。
本当に小さな島で、自転車でゆったり2時間も走れば島を一周できてしまう。
小学校も中学校も1つ、高校は他の島にしかなく、寮に入らずにフェリーで通う子は数えるほどしかいないという。
わたしと同い年の子は、海智瑠という女の子の名前を一人知るだけ。
瑠璃色の風が吹き抜ける島でたった一つの、ちっぽけな介護施設に、両親はわたしを送り出した。
デイケアセンター『渚』。
それがわたしの、一夏のバイト先。