短編・中編
□碧と2才
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「千伽ちゃん、ごめんそっち持って」
「あ、はい」
「あと悪いんだけど、このあと松下さんのとこ行ってあげて。朝食べるのずいぶん遅かったから、具合悪いのかも」
「わかりました」
返事をすれば、所長の宮守さんは「2日目にして優秀っ!」と笑ってくれた。
宮守ふみさん。
まだ30代で独身だけど、スタッフからもお年寄りからも絶大な人気と信頼を誇る、日に焼けた肌とポニーテールが元気な女の人。
わたしの一日は、8時に『渚』に到着して、この宮守さんに指示を仰ぐところから始まる。
寝起きするのは、センターから歩いて10分の宮守さん宅――ここでバイトをしている人たちがお世話になっている、下宿みたいなところだ。
「松下さん‥は、A館の、」
「おーよく覚えてんのな。松下のばぁは2階のエレベーターの左奥!がんば千伽ちゃん!」
後ろから、食器をガタガタいわせながらワゴンで運ぶ先輩スタッフが、ヒントをくれた。
ここの人たちは、みんな親切だ。
こういう職業に従事してるからなのかもしれないけれど、みんな気さくで、心配りもしてくれて、こうやって声もかけてくれて。
仕事はやっぱり人が相手だしハードだけど、みんな支え合いながら頑張ってるのがよく分かる。