短編・中編
□花冷えとキス
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じょんと私は、8年前に出会った、身体の友人。
いわば、セフレだ。
2歳で両親を事故で亡くし、当時16歳だった私は、親代わりだった祖母の死を機に親戚中をたらい回しにされた挙げ句、小さな頃からお世話になっていた図書館の館長のおじいさんに引き取られた。
それでも、いくら顔見知りとはいえ、思春期の16歳にとってはそこはいささか息苦しい場所で。
そこで出会ったのが、じょんという青年だった。
はっきり言って、第一印象は胡散臭い、それだけ。
まず、本名なわけがない。
確かに色素は薄いようだったが、決して金髪碧眼などではないし、極めつけにはフルネームを言えない。
――そんな外人、いるか馬鹿。
そして、服がとにかく全身一色だった。
何色だったか覚えてはいないが、見事に同系色で揃えられた服装で、一瞬着ぐるみかと思ったのだけは記憶にある。
まぁ、ずいぶんと細い着ぐるみだったけれど。
更には、この男は、私を一目見るなり、「一緒に住もう」と言った。
まず言葉を失って、次に私は大笑いした。
平日のがらんとした図書館に、胡散臭い男と、幼い女。
館長は、お昼休憩にでも行っていたらしかった。
さながら、食虫植物の甘い罠に誘われる昆虫のごとく。
私は、じょんに、さらわれた。