長編小説
□ランダム頭と梅干し
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「梅干しってさ」
「うん」
「見てるだけで酸っぱいよね」
「そうだね」
「‥干し梅ってそんなに酸っぱくないよね?」
「そうなの?」
「いや酸っぱいけど‥なんかまだ、生温いというか。うん、生温い」
「あらあら」
「‥ねぇハチ」
「ん?」
「あ、いや、ううん――話は一応聞いてんのね」
「えーちゃんと聞い‥‥あっあった!なんだここか。ヘルツェゴビナ‥丸、と」
‥‥どこがちゃんと聞いてるんだよ。
私は痛くなる頭を思わず押さえる。
私は別段梅干しを愛しているとか干し梅に不満があるとか、そういうことではない。
ただ、目の前のテーブルに、先客の忘れ物らしき干し梅のゴミがあったから、それとなく口にしただけ。
私と向かい合わせに座る人間に、なんとかして話し掛けるために。
色沙汰?そんなんじゃない。
目の前の人影が、ふっと倒れた。
「どーしたの」
「んあー。頭、痛い」
「‥雨降るのかな」
「どうだろう。気圧は低いと思う。6月だからね」