05/29の日記

20:56
命の重み
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ガギィッ! ギギィ…!

耳を塞ぎたくなるような金属が擦れる音が断続的に響くけど、今の俺にそんな余裕は皆無だった。

何故なら音の正体は振り下ろされるライガクイーンの爪を俺が剣で防いでいる音だからだ。

攻撃を受け止める度に、全身にズッシリと重い衝撃が走る。

あまりの猛攻に俺は反撃する余裕すらなく、防戦一方だ。

いや、それだけじゃない。出来るならライガクイーンを傷付けたくない。そんな思いがずっと胸の中にあって、俺の剣を重くしていた。

だって彼女はただ普通に暮らしていただけなんだ。今もこれから生まれてくる自分の子供を必死で守ろうとしているだけなのに……。

そんな命を奪うなんて……。

「……俺には…出来ないよ…」

小さく呟いた俺の両手はもはや完全に痺れていて、剣を握っているだけでやっとだ。次に振り下ろされる爪を防ぐ力なんて、残ってない。

「ツナ!!何を!?…逃げろっ!!」

背後で援護の譜歌を歌っていたラルが切羽詰まった声で叫ぶのを聞きながら、俺は一歩も動けなかった。

ライガクイーンの攻撃は、俺の両手だけでなく全身を痺れさせていたから。

風を切る爪の音、クイーンの雄叫び、ラルの声、バジル君の悲鳴………。

色んな音が混ざり合い俺の鼓膜を揺さぶる。そんな不協和音の中に混ざり込んだ異質な音。




「おやおや…見ていられませんね…」

呆れたような呟きの一瞬後、今にも俺の脳天に振り下ろされようとしていた爪がガァンと激しい音を立てて弾かれた。

いや、爪だけじゃない。ライガクイーンの巨体が大きく後ろに吹き飛び、岩壁に打ち付けられるのをスローモーションのように見ながら、俺はただ立ち尽くしていた。

「クフフ…魔物風情が、随分と意気がっているじゃありませんか?」

さっき響いたのと同じ、甘やかな大人の男声に引かれるように後方へと目を遣れば、見覚えのある人物の姿が映り込み、思わず息を飲む。

「…ぁ…き、君は………」

緊張からカラカラに渇いて張り付きそうになっていた喉から、無理矢理搾り出すように呟いた俺を、赤青二色の瞳が捉える。

「手を貸して差し上げましょう」

自信に溢れた声と顔は、まさに幾度となく死線をくぐり抜けた軍人のモノだった。どこか師匠を彷彿とさせる、その雰囲気に俺の体から力が抜ける。

クタリ、とその場にへたり込んでしまった俺の体を慌てて駆け寄ってきたラルが支えた、その瞬間だった。

「大地の咆哮…其は怒れる地龍の双牙……グランドダッシャー!」

呪文の詠唱と共に、ライガクイーンのすぐ足元の地面がひび割れ、せり上がってきた地表が鋭い刃のようになってクイーンを襲う。

ギャオォォン!!!!

耳をつんざくような咆哮を上げて、クイーンはその巨体を地に横倒わらせた。

それは断末魔の悲鳴。一つの命が終わる時に響く、最期の声だった。

細かく痙攣を繰り返していた体がやがてピクリとも動かなくなったのを確認し、俺は力の入らない体を叱咤して立ち上がるとヨロヨロとクイーンに近寄って行った。

「綱吉っ!?」
「ツナっ!?」
「綱吉さんっ!?」

バジル君とラルと隼人君が俺を引き留めようと掛けてくる声も無視して前に進む。

動かないクイーンの体、苦しそうな顔、全身傷だらけで、血が水溜まりみたいに…下敷きになった卵、生まれてくる筈だった命は、もう……。

見た事もない悲惨な光景に、体が震える。気持ち、悪い……。

再びへたり込みそうになった俺を誰かの腕が支える。誰だろう…と朦朧とした頭で考えながら振り向けば、何処か怖いくらいに造作の整った顔が俺を見下ろしていた。

「…む…骸………?」

呆然と名前を呼んだ俺に、相手は薄い唇で弧を描くように微笑する。

「大丈夫ですか?確か、エンゲーブでお会いしましたね?」

「…どうしても、殺さなきゃいけなかったのかな…?」

問い掛けに答えることなく、自問自答するように呟いた俺にたいして、骸はフッと口元を歪めた。

「…お優しい事ですね。自分が殺されそうになっておいて、そんな綺麗事を仰るとは……」

それは嘲りを含んだ酷く冷たい微笑だった。赤青二色の瞳の奥に一瞬浮かんだ残忍な光が俺の背筋を凍らせる。

「…っ………」

でも、そんな恐怖を押しのけて沸いてきた感情に、俺は思わず相手の胸倉を掴んでいた。

その感情の名は、怒り。

「そんな言い方ないだろっ!?…俺は、ただ…」

勢いのままに叫んでいた俺だけど、自分でも何が言いたかったのかよく分からなくなって言葉は尻窄まりに小さくなってしまう。

そんな俺の隙を付いたように、骸は胸倉を掴む俺の手を捕らえ、グイッと強く引いた。視界がグルッと回転して目が回る。

訳も分からず混乱している内に、俺は骸に羽交い締めにされていた。

「…な、何すっ…離せよ…!」

ジタバタと抵抗しても、流石に軍人の腕力は並でなく、ビクともしない。

「おい、貴様!何をしている!?」

「綱吉さんに何しやがるっ!?」

ラルと隼人君の上げる怒りの声にも、骸は全くたじろがず、小さく呆れたように溜息を吐く。

「そちらこそ、僕の質問に答えて頂きましょうか。何の目的があって、国境を越えて来たのですか?」

え?今、なんて…なんで俺達がキムラスカから来た事を知ってるの?

首を無理に捻って背後を振り返れば、皮肉に歪められた微笑が俺を見下ろしていた。

「…骸、彼らに手荒な事は…」

それまで黙って事の成り行きを見守っていたバジル君が言いながら進み出れば、骸はヤレヤレと大袈裟に肩を竦めた。

「僕だって出来れば穏便に物事を運びたいですよ?ただし……彼らが大人しくしていてくれれば…の話ですが…」

暗に抵抗するなら、それなりの対応をさせて貰うと言っているような骸の台詞に心底ゾッとして、俺の体から抵抗の力を奪う。

「…イイ子です…」

低く甘い声がまるで悪魔の囁きのように耳に落ちた。




続く?

後書き

何をトチ狂ったか久々に連載を再開したアビスパロ。

かなーり本編と掛け離れていますが、飽くまでパロなのでと割り切って読んで下されば…(汗

骸しゃんにはツナを背後から羽交い締めさせたくて堪んないんです。お約束と言うか…。

今後続くかどうかは皆様の反応に掛かっていますので続き読みたいと思った方はコメに書き込み宜しくお願いします。



☆コメント☆
[アシル] 07-10 00:16 削除
どうも 初めまして。
深淵パロ 読まさせていただきました。

羽交い締め……イイですロマンだと思います。
そのまま、お持ち帰ればいi(殴)


これからも 更新頑張って下さい。
微力ながら、応援させていただきます。

長文乱文、失礼しました。

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