Special NovelA
□Rose limit
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この薔薇の花弁が全て散るときまでに真実の愛を得ることが出来なければ、呪いは解けない。
§
ある村に住む一人の少年は、籠を片手に日課である朝の買い出しへと向かった。
小柄な彼は人でごった返すマーケットの中に埋もれてしまいそうになりながら、必要な食材を買い足してゆく。
「おじさん、トマト貰える?」
そう少年が声を掛ければ顔なじみの店主は朗らかに笑い、艶やかな赤い果実を投げて寄越した。
「ほらよ、ツナ君。いつもの礼だ、ただでやるよ」
そう言って茶目っ気たっぷりにウインクする男性に、ツナと呼ばれた少年はニコリと微笑んだ。
「ありがと、また来るね」
「おうよ、待ってるぜ」
そんな会話をしてマーケットを後にしたツナは家に戻ろうと、大通りから小道に抜けたところで不意に何者かに行く手を遮られて足を留めた。
「やぁ、綱吉。今帰りかい?」
「あ、ヒバリさん…はい」
ペコリと頭を下げて見上げれば、そこには黒髪と同色の瞳を持つ少年の姿。
彼は元来切れ長な目を細め、ツナを映して笑った。
「そろそろ僕のモノになる気になったかい?」
そう尋ねながらツナの華奢な顎を指で掬い、顔を近付けてくるヒバリにツナは慌てて両手を突き出した。
「ちょっと…何のつもり?」
「それはこっちの台詞です。ヒバリさんこそ何するんですか」
ムッと眉を寄せたヒバリに対してギャーギャー喚くツナ。相手はしれっと言い切った。
「何ってキスじゃない。挨拶だよ、挨拶」
普通のことでしょ、と涼しい顔で言った彼にツナはカァと赤面しながら反論する。
「男同士で挨拶なのに唇にキスはしません!…てか、あんなに激しいの挨拶じゃないです!」
以前にされた舌を絡める激しい口許けを思い出し、ツナは口を押さえて俯いた。
「君が早く僕のモノにならないからだろ?」
よく分からない屁理屈で迫ってくる彼に、ツナは思いきり腕を突っ張って身体を離すと、そのまま家へ向かって走った。
「綱吉、僕は諦めないからね」
そんな声を背後に聞き、ますます足を速めたツナが家に着く頃にはもうクタクタだった。
「ただいま〜」
ようやく息を整えてから家の扉を開けば、ベッドの上で状態を起こした母親が迎えてくれる。
「お帰り、ツナ…」
穏やかに笑う彼女の顔にツナはホッと息をついて、貰ってきた物を見せようとするが手の中には何もなく、固まった。
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