Special Novel
□優しい吸血鬼
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ヴァンパイア。和名、吸血鬼。
血液を主食とし、特に処女の生き血を好む。
見た目は人と大差ないが、肌の色は透けるほどに白く、その姿は鏡に映らない。
大抵は美しい男性の姿をとっており、蝙蝠に姿を変えることもある。
不老不死の肉体を持ち、例え首を切り落とされようが死なない。
しかし、日光とニンニク、十字架の他に水を嫌う。
故にその命を絶つには、日光で焼き殺すか、心臓に聖木でできた杭を打ち込んだ上で首を切り落とすしかない。
§
闇迫る夕暮れ時、村外れにある一軒の家から、一人の少年が水桶を抱えて出て来た。
「う〜…寒っ、なんで昼間のうちに水汲みしとかなかったんだろ……?」
小柄な体を縮め、呟くように漏らした少年はすぐさま「ま、そんなの言ってもな…」と打ち消すようにフワフワとした茶色い頭を左右に振って、すっかり群青色に染まった空を髪と同色の大きな瞳で見上げた。
「……………、…」
少年はしばし感慨に耽るように夕闇に身を投じていたが、やがて吹き始めた冷たい夜風に首を竦め、足を家の裏の森に面した井戸へと向けた。
チャプン、と音を立てて釣瓶を落とし水が入った桶を汲み上げていた彼はふと森の入口に目を向け、「ん?」と首を傾げた。
何か白くて大きな物体が木の根元辺りにあるのを見つけたからだ。
少年は急いで水の入った桶を井戸から引き上げてその場に置くと、恐る恐るとソレに近付いてゆく。
「…うっ……」
見ればソレは体を縮めて呻いている人間の姿で、少年は慌てて駆け寄るとしゃがみ込むようにして相手に声を掛けた。
「だ、大丈夫ですかっ!?」
すると相手−白い長髪の青年は短く呻き、少年を見上げた。体中に深い傷を負い苦しげな表情で眉を寄せている。
「…へ、平気だぁ……放っておけぇ……っ」
青年が言った途端、少年は眉を吊り上げて相手を怒鳴りつける。
「そんな苦しそうな顔で何言ってんですかっ!?…手当てしますから掴まって下さい」
気弱そうに見えた彼の急な激昂に青年は呆気に取られたようにポカンとし、知らず延べられた手を取っていた。
「…よっと……っ」
青年の腕を自身の肩に回し、小柄な体で懸命に支えた少年はヨロヨロと立ち上がる。
「変わった奴だなぁ…ゔぉ゙い……」
複雑な表情で、それでも口元を僅かに綻ばせて呟く青年に、少年は「よく言われます」と苦笑した。
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