01/05の日記
21:47
この頃流行りのA-BoyC
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沢田綱吉と共に暮らし始めて、一週間が経つ頃、小さな変化が表れた。
まずは沢田綱吉自身のことだが、初めは俯いて人の顔を真っ直ぐに見ようとしなかった彼は、最近になって漸く僕の顔を見て話すようになった。
時折だが、笑顔も見せるようになった。
初めてそれを目にしたのは三日前、暇を持て余していた僕が彼とゲームで対戦していたときのことだった。
得意だと言うだけあって、彼の音ゲーの腕前はなかなかのものだった。
そのときプレイしていたのは、曲に合わせてコントローラーを操作し、太鼓を奏でるというゲームだったのだが、彼は普段の鈍臭い雰囲気からは想像出来ない軽快な手つきでコントローラーを操り、見事フルコンボでクリアしたのだ。
難易度は鬼の星三つ。僕ですら達成率が八十そこそこだったと言うのに…。
信じられないとばかりに見つめれば、彼は照れ臭そうに頭を掻いた。
『…音ゲーと落ちゲーだけは、得意なんです……』
そう言ってはにかむように笑った彼を目にした途端、僕の手からコントローラーが滑り落ち、気付いたときにはフローリングの床の上に転がっていた。
意外だったのだ。陰気で暗い顔しか出来ないと思っていた彼が笑えるという事実に、動揺してしまった。
ふと頭を過ぎった『笑うと、案外可愛いかもしれない』という我ながら馬鹿げた考えを打ち消すように頭を左右に振り、再びゲームに没頭した。
その後は散々だった。つまらないところでミスを繰り返し、彼との得点差は開くばかり。
結果は彼の大勝に終わった。
多少の悔しさはあったが、そこまで不快な感覚はなく、胸の辺りがむず痒いような気がした。
それ以来、僕は沢田綱吉を少しではあるが認めるようになった。
むやみに蔑みの視線を向けることはなくなり僕から声を掛けるようになると、それに比例するように彼の雰囲気も柔らかくなった。
ボソボソと呟くような話し方は相変わらずだが、かなり明るくなったと言ってもいいだろう。
今日は、学校から帰ると気配を察したらしい彼が玄関で待ち構えていた。
「六道さん、お疲れ様です…」
ホワリ、と僅かに綻んだ口元で告げてくる彼に、僕の口も自然と緩んだ。
「…ただいま帰りました……」
こんな台詞を口にするのは一体何年ぶりだろうと思いつつ、靴を脱いで玄関を上がる。
「はい、お帰りなさい…」
当たり前のように返してくれる声が温かい。誰かが帰りを待ってくれるという感覚も悪くないと思えた。
§
「…え?一緒に買い物…ですか……?」
日課のようになった音ゲーでの対戦中、不意に切り出した僕を彼は驚いたような顔で見返した。
余程予想外だったのか、彼の手は完全に動きを止め、彼の画面側の太鼓は口から魂を垂れ流している状態だ。
それをチラリと横目で見遣りながらも僕は手を止めず、更に言葉を続けた。
「えぇ…君、此処に来てから、一度も外に出ていないでしょう?たまには日に当たらないと、体に悪いですよ?」
「………でも…俺……」
僕の提案に彼は乗り気ではないらしく、渋るように呟き目線を泳がせた。それほど外に出たくないのかと尋ねれば、彼は戸惑いがちにではあるが、首を横に振った。
「外って言うか…俺、人が沢山居るところが苦手で……」
その言葉に初対面のとき、兄の背中にピッタリと張り付いていた彼の姿を思い出す。
まるで自身の存在を隠すように大きな背中に縋った行動は、彼の怯えの顕れだったのかもしれない。
アルコバレーノからの情報によれば彼は現在、十四歳。
しかし、僕と一歳差だとは思えないほど貧弱な彼の体つきは、長年の引きこもりによる発育不良が原因だろう。
更に言えば引きこもりの原因は恐らく、いじめ。
対人恐怖症気味の彼の性格から言っても、多分間違いない。
しかし、このままという訳にもいかないだろう。
「初めは五分だっていいんです。少しずつ慣れていきませんか?」
宥めるように口にすれば、彼は散々に視線を彷徨わせた後、小さく頷いた。
「…俺も…このままじゃいけないって、分かってます…」
だから、頑張ります……。
蚊の鳴くような声で呟く彼の体は僅かにだが、震えていた。
そんな彼の姿に僕の胸は自然と熱くなり、気付いたときには彼の頭に腕を伸ばしていた。
「…っ…………!!?」
途端、彼は息を飲んで素早く体を引いてしまう。行き場をなくした手を突き出したまま呆然としている僕に気付いた途端、彼は申し訳なさそうに俯いた。
「あ…すみません…俺……」
まるで苦い物でも飲まされたような酷く痛々しい表情で謝る彼に、怒る気にはなれず、僕は宙に浮いたままになっていた手を引いて苦笑したのだった。
続く?
☆コメント☆
[美穂] 01-20 22:42 削除
めっさくさ読んでて楽しいですwww
骸とツナ…これからどんどん仲良くなって欲しいですwww
これからも応援してますので
頑張って下さいwww
絶対見ますのでwww
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