01/21の日記

00:18
この頃流行りのA-BoyD
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「いつまでそうしているつもりですか…?」

僕が嘆息して見つめれば、沢田綱吉は扉の影からヒョコッと顔を出して「すみません…」と頭を下げた後、再び扉の影へと隠れてしまった。

夕べ約束した通り、僕達は街に買い物に行こうとしているのだが、彼は僕のマンションの部屋から出ることすら出来ず、

かれこれ五分以上、玄関から顔を出したり引っ込めたりをひたすらに繰り返している。

まるでチープなシューティングゲームの標的のような行動を繰り返している彼を、反射的に狙い撃ちしたくなる衝動に懸命に堪えつつ僕は根気強く彼が出て来るのを待った。

相手は野性の小動物のようなものだ。下手に刺激してはいけない。平常心を保ち、ひたすらに待ち続けるしかない。

そうして待ち続けること更に五分。彼は漸く扉の影から全身を覗かせて恐る恐る、外へと足を踏み出した。

パタンと扉が閉まる音にさえビクリと体を震わせる彼は、酷く弱々しい。

「お、お待たせしました……」

申し訳なさそうにペコリと頭を下げてくる彼に僕は苦笑で答える。

「いえ、頑張りましたね。それでは、行きましょうか…?」

言いながら、思わず彼の頭を撫でようとしていた僕は夕べのことを思い出し、慌てて伸ばしかけていた手を引いた。

彼は他人から触れられることを極端に嫌っている…というよりは恐れているのであろう。夕べの彼の様子から、そう感じた。

不用意に触れては折角少しずつ良好になってきた彼との関係を一気に瓦解させかねない。

そんな僕の胸中を知ってか、彼がますます申し訳なさそうに身を縮めるのを見て、少し切なくなった。

「…す、すみません…気遣わせちゃって……俺…」

今にも泣き出しそうに震える声で紡いだ彼は己の弱さを恥じているのかもしれない。

しかし、身を縮め、存在を殺し、そうすることでしか己を守る術を持たない彼をどうして僕が責められようか。

僕は「気にしないで下さい」と出来るだけ柔和に見える笑みを浮かべて、チョイチョイと手招いて彼を呼んだ。

途端、彼の表情が目に見えて緩むのが分かる。

実は手招きという動作は兄が彼を呼ぶときに用いていた方法なのだ。

押し付けるように渡されたあのマニュアルが、まさか、こんなところで役に立つとは思ってもみなかったが、効果は覿面だったようだ。

彼はトテトテと小走りに僕の側へと寄ってくると僕のコートの背中の一部をキュ、と掴んだ。

思わずクスリ、と小さく笑いを漏らした僕に、彼は慌てて手を離してしまう。

「あ、すみません…俺………」

いつもの癖で…と、決まり悪そうに呟く彼に僕は「構いませんよ」と返し、彼の方に背中を向けた。

「この方が安心するんでしょう?生憎、僕はアルコバレーノではありませんが、代わりくらいなら務められますから、ね?」

ほら、と促せば暫くの間、逡巡していた彼はやがて怖ず怖ずと僕の方へと手を伸ばし、コートの布地を遠慮がちに摘んだ。

「あ、ありがとうございます…六道さん……」

フワリと口元を柔らかく上げて微笑む彼に、僕の顔もつられて綻ぶ。

「では、まず近所のコンビニにでも行ってみますか…?」

そう提案した僕に、彼は首に巻いたロングマフラーに顔を埋めるようにしてコクンと頷いた。




§

「うわぁ、すごい……」

彼はドリンクが陳列されている巨大冷蔵庫の中のある一点を見つめて、簡単の声を上げた。

彼の目線の先にあるのは某RPGの回復アイテムを模した缶入りの清涼飲料だ。一度瓶で発売されたときは僕も購入したことがあるが、味はハッキリ言って微妙だった。

けしてマズイという訳ではないのだが、かなり人工的な味で好き嫌いが分かれることは必至の複雑な味が舌の上に蘇り、思わず眉を潜めると沢田綱吉は困惑気味に僕を見返してきた。

「あの…六道さん、どうかしましたか……?」

「あ、いえ…君は、それが好きなんですか?」

ごまかすように尋ねれば、彼は小さく首を横に振って答えた。

「いえ、リボーンが…こういう限定品好きで、よく買ってきてたから懐かしいな…って思って…」

コレの味は微妙でした…と苦笑する彼に、僕は同意の意味を込めて苦笑混じりに頷いた。

「僕もこの手の物はパッケージ目当てに買うこと以外はあまりありませんし…」

「外れたら悲惨ですもんね…」

レジの奥からこちらを見つめている金髪頭の男性バイトには聞こえないように声を潜めて笑い合った。

その後、雑誌コーナーでそれぞれ目当ての物を見つけて精算を済ませた僕達は、冬の風に身を竦めながらマンションへの帰路を急いだ。

「へぇ…アイツ……」

僕らが店を出た後、レジ係の男が沢田綱吉の後ろ姿を見つめながら興味深げに呟いたことにも気付かぬまま。




続く?

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