11/14の日記

21:10
血塗れの脱出劇
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ドサリ、と力無く倒れる長身の身体。ピクリとも動かないソレからはダラダラと鮮血が流れ、床を汚していた。

「…さ、刺した………」

呆然と呟き、口元を押さえる。…気持ち悪い。

ライガクイーンの死骸と割れた卵を見たときのような、例えようもない不快感に眩暈がする。

「さぁ、タルタロスの奪還に向かいましょう」

「しかし、大佐は封印術に…」

「えぇ、強力な譜術は使えませんが、貴方の譜歌と綱吉の剣術があれば、何とかなるでしょう」

何事もなかったかのように会話している二人が信じられなかった。

これが軍人と民間人の違いなんだろうか。

「ほら、行きますよ。綱吉」

ス、と目の前に伸べられた手を無視して、俺はヨロヨロと立ち上がった。

この手がγを殺したのだと思えば、縋る気にはなれなかった。

正面から行ったのでは返り討ちに合う危険があるということで船橋から回り込んで、操舵室に向かった。

俺は足手まといになるからと表に残され、隼人君と二人きりになる。

眠った兵士の横で座り込み、己の不甲斐なさを恥じる。

俺は、このまま誰かのお荷物になるしか出来ないのか?

「綱吉さん、元気出して下さい」

「…隼人君、ごめんね。ありがとう…」

落ち込む俺を励まそうとしてくれる隼人君に悪くて、俺は出そうになった溜息を飲み込んだ。

二人はまだかな、と待っていたときだった。

「綱吉さん、危ないっ!」

切羽詰まった隼人君の声に慌てて振り返ると、背後に剣を構えた兵士の姿。

どこかに隠れていたのかラルの譜歌が効いてないみたいだ。

「うわっ、こ、来ないでっ!」

夢中で突き出した剣は、過たず相手の胸を貫いた。

ザクリ、と肉を裂く不快な感触が手に伝わり、ゾワリと鳥肌が立った。

「刺した…俺が、殺した…?」

呆然と呟く。カタカタと震える手から剣が落ちた。紅い液体に塗れて鈍く輝く刀身に怯える俺の顔が映っていた。

「何の騒ぎだ!?」

「マズイ、今の騒ぎで譜歌の効果が切れ始めました」

血相を変えて飛び出してきた二人の姿に、俺は声にならない声を上げ、口をパクパクと動かした。

「人を殺すことが怖いのならば、剣など捨ててしまえ…」

威圧的な声と共に氷の雨が降り注ぎ、俺とラルは諸にダメージを受けて気を失った。

だから、その後のやり取りを俺は知らない。




§

…綱吉…目覚めよ……

…綱吉…っ…

また、あの声だ。

痛む頭を押さえながらのっそりと起き上がれば、心配そうに顔を覗き込むラルと目が合った。

「気が付いたか?」

「…ここは…?」

「タルタロスの船室です。武器を取り上げられ、閉じ込められました」

冷静に状況を教えてくれる骸の声をどこか遠くに聞きながら、俺はボンヤリと両手を見つめた。

この手で人を殺した。

震えと嫌な汗が止まらない。

「さっさと此処を脱出しましょう」

俺の様子には目もくれず、骸は格子状の光線の間から何かを飛ばし、向かいの扉の通信管に当てた。

途端、格子が消える。

骸は落ち着いた足取りで通信管に向かうと、口を当てた。

「死霊使いの名の元に命じる。作戦名、地獄道遂行せよ」

ガタン、と音を立ててタルタロス内の電源が落ちた。

「…何が起きたの…?」

「タルタロスの非常停止機構を作動させました。復旧には時間がかかる筈です。今のうちに左舷ハッチへ向かいましょう」

倉庫に保管されていた火薬に着火して壁を破り、外へと出た俺達は速やかに左舷ハッチへと向かった。

そして敵が帰って来て外から扉が開かれるときを今か今かと待っていた。

そして、その時は来た。

開かれた扉の向こうの兵士に向かって隼人君を構える。

「隼人君、お願い…!」

「は、はいっ!」

ボォ!と吐き出された火炎に驚き、後ろのめりに倒れた兵士はそのまま階段を滑り落ちて行く。

階段の下で待機していた金髪の青年が異変に気付き、身構えたとき飛び降りた骸の槍が、その喉元を捉えていた。

「ふん、流石は死霊使い…術を封じても侮れねぇな、コラ」

ライトブルーの瞳を細め、クスリと笑う青年に骸も皮肉っぽい笑みを返す。

「お褒めに預かり光栄です。…武器を捨てて貰いましょうか?…今です、ラル。譜歌を…!」

「ん?ラル…だ?」

身構えていたラルは骸が槍を突き付けている相手を視界に捉えた途端、明らかにうろたえて動きを止めた。

「…コロネロ…?…何故、貴様が……」

その一瞬の隙を相手が見逃す筈もなく、骸の槍はコロネロの蹴りによって弾き飛ばされた。

俺も起き上がった兵士に剣を押し付けられ、ホールドポーズを取ったまま硬直するしかなかった。




後書き↓

かなり久しぶりです。リグレット=銃使い+ラルの知り合いということでコロネロに決定。

いや、いいね。アルコバレーノ万歳(笑

次回も続くよう頑張ります。

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