07/04の日記

19:45
説得?
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「さあ、入って頂戴。何もない所だけど」
「は・はい!…お邪魔します…」


と、言うわけで、ご主人さまと僕はアルフォンス君と一緒に家に帰ってきた。

そういえば、アルフォンス君がご主人さまの家の中に入るのは初めてかも知れない。
玄関まで入ってきた事は何回かあったけどね。


「ソファにでも座っていてね」


どうしたら良いかちょっと困ってるアルフォンス君に、ご主人さまは上着を脱ぎながらそう言った。


「は・はい…あの、中尉」「何?アルフォンス君」


アルフォンス君はおっきな鎧の体を小さくして、俯いてて。
おっきく見えてもやっぱりエドワード君の弟で、まだ子供なんだよね。僕も人の事言えないけど。


「僕達の所為で中尉にご迷惑をお掛けしてしまって…本当にごめんなさい…」


鎧だから表情は変わらないけど、声の感じで今にも泣きそうになってるんだって事は分かる。
なんだか不思議だね。


「アルフォンス君、そんな事言わないで頂戴。私は迷惑だなんて思っていないわよ?」
「でも…」


それでも不安そうにしているアルフォンス君に、ご主人さまはにっこり笑いながら言った。


「寧ろ、ちょっと嬉しいって思ってるのよ」
「えっ!?」


ご主人さまの言葉にびっくりしたアルフォンス君は、俯いていた顔を勢い良く上げて、ご主人さまの顔を見た。
それはそうだよね。迷惑を掛けてたんだと思って謝ったら、嬉しいって言われたんだもの。

驚いてるアルフォンス君に笑顔を向けて、ご主人さまは話し続けた。


「まるで、弟が出来たみたいで…。きっと、私だけじゃなくて司令部の皆がそう思っている筈よ」
「僕達が…弟…?」


ご主人さまの言葉をアルフォンス君が繰り返す。
確かに、僕から見ても二人は司令部の皆の弟みたいだ。何だかんだ言って、エドワード君とアルフォンス君がいる時の司令部って楽しそうだもの。


「そうよ。だから遠慮しないでもっと私たちを頼って、甘えて頂戴ね」
「中尉…はい、有難うございます…!」


ご主人さまの言葉で、アルフォンス君の不安な氣持ちは消えたみたいだ。
反対に、今は嬉しい、とかありがとう、っていう氣持ちが周りに出てるのが分かる。鎧の顔も何だか明るい表情に見えるから不思議だ。


「それでね、アルフォンス君。大佐とエドワード君の事なんだけど…」
「っ!……は・はい…」


氣持ちがだいぶ解れた所で、大佐とエドワード君の話になった。
きっと、この話がご主人さまの一番話したかった事なんだろうなって思う。ご主人さまが一番心配してたの、僕知ってるから。


「大佐は普段はあんな怠惰の塊の様な人だけど、本来はきちんと仕事の出来る人だし、信頼のおける上司よ。私たちが保証するわ」


普段はたいだのかたまりって…。その言い方は結構ひどいと思う。良い事も言ってるけど…。さすがご主人さま?
ところで、たいだって何?


「だから、アルフォンス君がそんなに心配する程の人ではないと思うの。ただの遊びで付き合う様な事は決してしない人よ、大佐は…」
「……。」
「エドワード君の事を話している時、とても優しい顔になるのよ、大佐って…」

大佐がエドワード君の話をしてる時の顔を思い出してみた。
……。
あれは優しい顔と言うより、にやけまくってる顔って言った方が正しいんじゃないのかな…。あくまでも、僕から見た感じだけどね。

アルフォンス君は、ご主人さまの話を聞きながら俯いちゃった。
ご主人さまは、話を切ってアルフォンス君の様子を伺ってる。たぶん、アルフォンス君が話すのを待ってるんだ。

部屋の中は二人が黙っちゃったから静かになった。ちょっと氣まずいかも…。

静かな時間が少し続いた。

何分くらいたったのかな?
暫らく黙った儘だったアルフォンス君がぽつりぽつりと話し始めた。


「それは…僕も分かってます。大佐が凄い人だって事や、兄さんの事を本当に大切に思ってくれているって事も…」


知ってたんだ、アルフォンス君。じゃあ、何であんな喧嘩になったんだろう?


「でも…だからこそ、心配なんです。」


そう言いながら、アルフォンス君は手のひらをぎゅっと握った。その仕草に、心配な氣持ちが表れてる。


「大佐と兄さん、二人の間には障害が多過ぎます。大切であればある程、いつかお互いに大きく傷ついてしまうと思うんです…」
「…だから、傷ついてしまう前に別れた方が良いと思ったのね?」
「はい…」


アルフォンス君、そんな風に考えてたんだ…。お兄さん思いの…ううん、それだけじゃなくて、大佐の事まで心配して。
むやみに怒ってた訳じゃなかったんだ。心配してるからこそ、怒ってたんだね。
本当に優しいんだね、アルフォンス君て。


「心配なのは分かるけれど…。あの二人ならきっと大丈夫よ」


ご主人さまは、そんなアルフォンス君に明るく言った。
と言うか、言い切った。


「そう…でしょうか…」
「大佐とエドワード君の間には、今までいろんな困難や危機があったけれど、全て乗り越えてきたでしょう?だからきっと大丈夫よ」

ね?って続けて不安そうなアルフォンス君に笑い掛けるご主人さま。

アルフォンス君はしばらく黙ったままだった。きっとまた、いろいろ考えてるんだと思う。
ご主人さまも無理に話をしようとしないで、アルフォンス君が喋るのを待ってるみたいだ。


「そう…ですよね…。きっと、大丈夫ですよね…」
「そうよ。貴方のお兄さんですもの。信じてあげなくてはいけないわよ」
「はい…!!…中尉、今日は有難うございました。中尉と話が出来て良かったです…」


良かった…。これでエドワード君とアルフォンス君、仲直り出来るかも…。さすがご主人さまだね。ご主人さまの言葉には説得力があるもの。

なんて安心してたら…。


「でも…もし大佐が少しでもエドワード君を悲しませる様な事をしたら、私が容赦しないから安心してね」


ジャキンッ!!


ぎゃあ!!


ご主人さまは、どこから出したのか自分の銃をジャキンってやって、爽やかに笑った。
こ・恐い…。その笑顔が恐い…。
なんとなく、黒いオーラが漂ってきてるし。


「その時は是非僕も協力させて下さいね、中尉」


ぎゃああっ!!

アルフォンス君の周りにも、物凄く黒いオーラが漂ってるんですけど…。


最強…いや、最恐の二人組が誕生した瞬間に立ち合ってしまった僕は、不幸…なのかな?


「アルフォンス君、お願いするわね」
「はい!!」


いや、二人が組んだのを知ることが出来たから、良かった…のかも知れない。








こうして、黒いオーラを漂わせながら夜は更けていった。

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