長編1

□21〜42
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「私の行きたいところ?」

「あぁ。」

「ふふふ…、そうきたか。」

「え?」

「ううん、何でもない。じゃ、この前二人で行った喫茶店行こう?」

「ん?あぁ。」


そして二人は、智也たちが向かった反対方向に足を向けて歩き出した。



「そういえば智季くんたちはもう準備した?入学式の準備。教材は明後日から販売だったよね…。」

「あ、あぁ…。一応。あとは教材をそろえるだけだ。」

「そっか。早いね。」

「あ、あぁ…。夏菜はまだなのか?」

「ん〜…もう少し、かな。スーツの注文は済ませてあるんだけど、まだ出来上がってないみたいで。
明後日には仕上がるって話だから、教材を買った後にでも取りに行くつもり。」

「そうか、まぁ滞りなく進んでるって感じだな。」

「まぁね。」


そんな他愛の無い話をしながら、智季と夏菜はあの喫茶店に到着する。


智季はエスプレッソ、夏菜はココアを注文し、一息ついた。


「そういえば此処、大学からも近いんだよ。」

注文していたものが届き、カップに口を付けながら夏菜が思い出したように呟いた。

「そうなのか?」

「うん。ほら…、あの建物がそうなの。」

喫茶店の窓から見える景色は、とても広々としており、人が行きかう様子が見える。
道を挟んだ向こう側には、大きな建物があり、夏菜はその建物を差して云う。

「へぇ…裏手、になるのか。」

「うん。前来たときは全然気付かなかったんだけどね。」

「確かに、気付かないな…。まぁそこまで目が行ってなかった、ってのもあるけどな。」

「まぁね。」







そして、その頃。


智也と優紀の二人は、一ヶ月前に来た遊園地の近くにある水族館に来ていた。
日曜日だと云う事で人の出入りが多い。


「此処、初めて来たかも…。」

「…最近、オープンしたらしいからな…。」

「この前来た時もあったっけ?」

「あぁ…。まだ工事中だったけど。」

「そうだったんだ…。全然気付かなかった…。」

水族館の入り口に、入場券を販売している、チケット売り場があった。
その隣には案内版が備え付けられており、様々なイベント情報が掲載されていた。


「そういえば、さ…。」

案内板を見ていた智也に、優紀がふと呟く。

「……?」

「何であたし?」

「………。」

二人の間に沈黙が流れ、行き交う人々はその二人に気にかける事無く、チケットを買ったり、これから入場する人や、帰る人の姿が見える。

「あ、別に無理に答えなくてもいいよ。さ、早く行かないと時間なくなるよ?」

「………。」

智也はチケットを買いに行く優紀の後姿をただ黙って見つめていた。



「……何で、か…。」


ぼそり、と呟いた智也の言葉は、誰の耳にも届くことはなく、風に乗って消えた。







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