長編1

□21〜42
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―――

――――


「さてさて…。今後の二人の事を話そうか。」

今だ喫茶店に居る智季と夏菜。
二人がこの喫茶店に入ってから、ゆうに一時間は経過している。

「今後の二人って?」

夏菜の突然の発言の意味が分かっていない智季が問う。

「決まってるでしょ。頼人くんと、瑞穂ちゃんの事。」

「はぁ?何でその二人…?」

「駅でも云ったように、智也くんと優紀ちゃんは、時間の問題だって。
啓くんと仁美ちゃんは初めから私が手を加えるまでもなくくっついてくれたし。
後は、一番厄介な頼人くんだよ!」

机に身を乗り出して云う夏菜。
それに比例して机から体を遠ざける智季。

「何でお前、そんなにくっつけようとしてんだよ…。」

「何でって?だって楽しいでしょ。」

「楽しいでしょってなぁ…。人で遊ぶなよ…。」

「遊んでないよ。私はただ、キューピッド役を自ら志願してるだけ。
………私にはそんな人、もう居ないから…。」

「…………。」

夏菜はふう、と息を吐き、ココアを飲み干した。

「そういえばさ、智季くん。」

「ん?」

「舞台祭の時、私に聞いたでしょ?好きな人は居ないのかって。」

「あ、あぁ…。」

「……本当はね、居るよ。」

「えっ…?」

夏菜のその言葉を聞いた智季は動きを止めた。

「…優紀ちゃん以外にこの話するの、初めてだね…。ずっと前、本当にずっと前、初めて好きな人ができて…。
でもその人は別の人が好きだったの。その人と、その人の想い人は両想いで、私の入る隙なんて少しもなかった。」

一息ついて、夏菜は視線を手元に落とす。

「想いを告げるだけ、無駄だと思った。だから、私はその気持ちに蓋をすることにしたの。
その人の事を忘れようって。だけどね…、ダメだった。
……その人の好きな人はね、とっても可愛くて、お人形さんみたいな子だった。
髪が長くて、キレイな顔して、大きな目に、笑顔がとても可愛くて…。私、その子みたいになりたかった。
そしたら、きっとその人も私の事を見てくれたかもしれないって…。
それから、私はいろいろやったなぁ…。この髪も、そうなの。」

夏菜は視線を手元から上げ、下ろしている自分の髪を指先に絡める。

「…その頃からずっと、伸ばし続けてた。…その人の事を忘れられたら…、この髪を切ろうって心に決めてた。
だけど…、今もまだ、伸ばし続けてる…。」

髪を弄ぶように動かしていた指を止め、髪から指を離した夏菜は、真っ直ぐに智季を見た。

「…私の周りに居る人には、幸せな恋愛をして欲しいの。だから、いろいろとお節介焼いちゃうのかもしれないね…。」

そう云って笑った夏菜は何処か寂しそうに見えて。
今までに見た事のない、夏菜のそんな表情。

「………そいつ、今何処に居る?」

「え?」

「俺が行って、夏菜の事も見てやれって…」

「…ありがとう、智季くん。」

机の上で拳を作っている智季に、夏菜は静かに笑ってそう告げた。

「夏菜…。」

「もういいの。ずっと昔の事だから。
それにね、今のでふっ切れた。」

「………。」

「智季くんがそんな顔しないでよ。あ、そうだ!思い立ったら吉日!これから美容院行こう!」

「は?」

「だから、髪を切りに行くの。」

「え、でもその髪は…。」

「云ったでしょ?もう吹っ切れたって。だから、髪を切る。」

「……でも俺…、夏菜はそのままの方が好きだけどな…。」

「……ありがと、智季くん。じゃあ、少しだけ、切ろうかな。もう前から決めてた事だし…。」

「……わかった。じゃあ付き合う。」

「ありがと。」



二人はそう云って笑い合い、喫茶店から出た。





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